• インタビュー
  • 2023.08.12

創部60年の歴史を紡ぎ次のステージへ、スポンサー獲得のリアルとは|国際基督教大学アポッスルズ

「昔はアメフトの防具を貰いに部員が米軍キャンプまで行っていたと聞いています。今の僕たちがこの大学でアメフトを出来るのも、そんな努力をして下さった先輩方のお陰です。」そう話すのは国際基督教大学アポッスルズ主将の松島直澄(まつしま なおと)選手。

今回は今年チーム創部60年という節目を迎えた国際基督教大学アポッスルズにチーム作りと、彼らがスポンサー獲得に成功した話を聞いてきた。

▼目次

    ■ 多様性のアメフト


    松島主将は高校までの12年間サッカー部。そんな彼が大学でアメフトを選んだ理由は2歳上の兄が同大学アメフト部だったこと、そしてもう一つはサッカーで感じたある事だった。

    「サッカーで活躍するためにはジェネラリストが求められるんです。足も速くてパスも正確で、周りも見えて状況判断も速くてって感じに、全てが求められて、全てが高いレベルでないといけません。そんなサッカーを12年続けて、なんか自分はここくらいまでだろうなっていう限界みたいものなのを感じてしまったんです。」

    そう感じるサッカーをやってきた松島主将からすると、アメフトは新鮮だったそうだ。

    「アメフトはボール取るのが苦手でも、足が遅くても、何か一つ強ければ活躍出来るんです。そういう多様性みたいなとこがアメフトならではだと思います。あと、アメフトは究極のチームスポーツだなと感じますね。1人でも自分の仕事をしないだけで、全てが上手くいかなくなるんです。」

    そんな松島主将が率いるアポッスルズは3部リーグに所属。昨年は同リーグBブロック1位となり、2部への昇格戦で千葉大学 ポセイドンと戦ったものの、20−31で負けた。

    千葉大に負け2部昇格は出来なかった

    「千葉大と比較して大きな差があったとは思っていません。あの試合では1人1人に少しずつ負けている部分があり、それが積み重なった結果の敗戦だと思っています。」

    プレーの理解度、最後までやり切る姿勢、そういった選手一人一人の小さな差が敗因と話す松島主将。だが、敗因はそれ以外にもあった。

    ■ 入替戦の敗因


    昨年度アポッスルズ4年生はわずか3人だった

    昨年入れ替え戦の敗因は、端的に言えば人数が少なかったことだ。これまで対戦した同じ3部リーグのチームは殆どが同じ状況で部員が少なく、お互いリャンメンの選手が多いために、試合で戦う条件はほぼ同じ状況だった。しかし上級生が4年生3人、3年生5人のアポッスルズに対し、入替戦で戦った千葉大ポセイドンは4年生と3年生が共に10数人おり、リャンメンの割合は少なかった。

    「入替戦の試合動画を見ても、自分達の方だけ試合前半の元気が後半に無くなってます。けど部員がいないのでどうしようもありません。」と松島主将は語る。

    アメフトにおいて部員数はチームの強さに大きな影響力がある。下位リーグではさらにその影響が大きい。敗因が人数不足であれば単純に増やせばいいと考えるが、部員が簡単に増えない理由がある。それは人数が少ないことにより、部費の負担額が大きくなることだ。

    ■ 部活の生命線


    「部員が少ないと1人あたりの部費負担が重くなってしまいます。部員を増やそうとしても新歓で『お金が掛かるなら良いです』って集まらない、集まらないと部費の負担が重くなる、負担が重いとさらに部員が入ってこない。この堂々巡りなんです。3部リーグや地方のチームはどこも同じ状況だと思います。」と松島主将は話す。

    部活の運営には経費が掛かり、経費を賄うために部費は重要な収入源だ。もちろん資金不足を努力と工夫で補える部分もあるが、それにも限界がある。金が無くても部活ができている状況は、誰かの自己犠牲によって辛うじて成り立っている場合が多い。それがリアルだと感じる。

    さらに財政状況を悪くしたのがコロナだった。部費以外に期待される父母会やOB会・後援会といった方々からの経済的支援が、練習見学や試合の応援・懇親会などリアルで集まる機会がなくなることで激減した。

    「オンラインでやっても人が集まらないんです。やっぱり試合に応援に来てもらったり、懇親会などリアルでお会いして話す機会が無いと、そういった方々との関係って離れていってしまうんだなと感じました。」と松島主将は語る。関係が離れることに比例して支援も薄くなってしまうことが部活動のリアルだ。

    周囲の大人が支援することが当たり前になっているのは一部のチームだけで通用する話で、同じアメフトに取り組んでいるにも関わらず、所属リーグや地域が違えば環境は全く異なる。そんな中、関東学生アメリカンフットボール連盟(KCFA)ではチームの財政状況を鑑み、2021年度からスポンサー(ユニフォームへの広告掲載)を認めている。

    スポンサーを獲得出来たチームには早稲田大学ビックベアーズの「メルセデス・ベンツ」、青山学院大学ライトニングの「Snapchat」など、上位リーグ所属チームが占める中、3部リーグのアポッスルズでも昨年からスポンサーを獲得している。彼らはどうやってスポンサーを獲得したのだろうか。

    ■ スポンサーに提供できるもの


    「もともと僕らの大学ではサッカー部にスポンサーがついていました。そしたらある日、そのサッカー部から『学生スポーツのスポンサーに興味のある企業がある』って言われたんです。」

    そう話すのはアポッスルズで昨年チームのスポンサー獲得チームを牽引した4年OL/DLの嶋崎翔太(しまざき しょうた)選手だ。

    4年OL/DL 嶋崎翔太選手

    スポンサーを獲得する為に様々なチームが試行錯誤をしていると思われる中、この話だけを聞くと棚ぼたのように感じてしまいそうだが、実際は違っていた。

    「大学には他にも色々な部活があります。サッカー部は企業から『この大学で他に頑張ってる部活はないか』と聞かれたそうなんです。サッカー部から見て僕らは他の部活と比べて一番しっかり上を目指して頑張っていた。だから自分達にだけこの話が来て、スポンサー企業を紹介して貰えました。」と島崎選手は話す。

    他の部活からスポンサーを紹介して貰えたのは、一重にアポッスルズが日ごろから熱心に部活に取り組み、リーグ昇格に向けて努力をしていたからに他ならない。彼らのその取り組がサッカー部の部員を動かしたはずだ。

    しかし、「最初にお会いした時の感覚は『あまり乗り気じゃないな』って感じでした。」と嶋崎選手が話すように、この段階では紹介されただけで、まだスポンサーが確定したわけではなかった。OBが関わる企業ならば純粋にチームの応援目的でスポンサーになるかもしれないが、彼らが紹介された企業はOBが居ないスタートアップのベンチャー企業だったため、彼らは自分たちの強みを考え視点を変えた提案を行った。

    「自分達は3部リーグなので、早稲田大学や青山学院大学のような、チームとしてのネームバリューは無いですし、外部へのCM効果は期待できないのが正直な話です。なので学内の学生に対してのインターン先や就職先といった、就活面での宣伝を提案してスポンサーになって頂きました。」

    自分達が企業に提供できるものを『3部リーグチームの宣伝力』と見てしまえば、確かに企業にとって魅力は低いかもしれない。そこで彼らは視点を変え、自分達が提供出来るものを『大学内での宣伝力』とし、見事にスポンサーを獲得した。

    今回彼らが作った実績は、スポンサーを獲得するのにリーグは関係無い事、そしてリーグの上下に関わらず自分達が取り組んでいる事には必ず価値があるという事を結果で示したのではないだろうか。

    ■ 60年の伝統を見直す


    「昔はアメフトの防具を貰いに米軍キャンプまで行ったそうです。今の僕たちがフットボールを出来るのも、そんな努力をして下さった先輩方のお陰です。」と松島主将は話す。

    創部時の先輩たちがそのような努力をした時代から、アポッスルズは今年で創部60年の節目を迎える。チームの歴史が長ければその分、毎年のように続けられてきた様々な伝統やイベントが存在するが、中にはコロナの影響で一度途絶えたものもあるそうだ。

    松島主将「合宿をやるのは4年ぶりです。それ以外にも懇親会を含めた東京外語大学ファントムズとの春の定期戦が途絶えていました。」

    コロナ禍前と同じ東京外語大学との定期戦を開催出来たのは4年ぶり

    コロナにより様々な事が途絶えてしまったが、松島主将は良いことだと話す。「昔からやって来た事を取捨選択できると思っています。それって本当に意味あるの?って。これからは自分達が部の伝統になっていた事を整理して、残すものを選んでいけると考えています。コロナ禍はチームの伝統やこれまで続けられてきた様々な事を一度リセットして、自分達の手でもう一度選び直す事ができるチャンスだと考えています。」

    コロナ禍をチャンスと捉え、チームの伝統を見直していくと話す松島主将に自身のチーム作りについて聞いた。「元気が良くて仲がいいというICUらしさを保ちつつ、フットボールを楽しみながらも強いチームを作っていきます。」

    「僕らのチームは殆どが初心者から始めるので、楽しさというモチベーションが無いとフットボールを続けづらいんです。ただし楽しさにも色々あります。勝つ事の楽しさ、自分が成長する楽しさ、メンバーで遊びに行く楽しさ。それぞれの楽しさのバランスを保つ事が大事だと思いますし、そんなチームを作っていきたいですね。」

    そんな松島主将率いるアポッスルズの今年度スローガンとこめた思いを聞いた。

    「今年のスローガンは『上昇』です。これは2部に昇格するという意味もありますし、昨年昇格戦の敗因である1人1人の小さな差を埋めていって、それぞれがレベルアップしていこうという意味でもあります。毎試合チームの応援に来てくださる方々の存在は本当に有難いと感じます。その方々への一番の恩返しは勝つこと、そして何といっても2部への昇格です。今年は全ての試合に勝っていきます。もちろん昇格戦も。なので是非会場にお越しいただき、僕たちの応援をよろしくお願いいたします。」

    今年で60年の節目を迎えるアポッスルズ。昨年果たせなかった2部昇格に向け、松島主将率いる今年のアポッスルズの活躍に期待したい。


    いかがでしたでしょうか。スポンサー集めはアメフトチームにとって必要不可欠ですよね・・・同じように活動している部活動に参考になればと思っております!来週からの記事は各リーグの注目校を配信していきますので、ご期待ください!!!

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