• インタビュー
  • 2023.05.19

「RBからチームを変える」、強い組織づくりへ踏み出した一歩|明治学院大学セインツ

「(4年間を振り返って)満足してないですが、後悔はありません。」

話すのは今年3月に明治学院大学セインツを卒部したRB(ランニングバック)の小泉 公平(こいずみ こうへい)選手。

セインツは昨年TOP8昇格を掛け慶應大学とのチャレンジマッチ(昇格戦)に挑んだが、チームは10-19で敗戦した。しかし、同チームは2020年に1部BIG8へ昇格したばかり。BIG8に昇格し僅か2年で同リーグ唯一の全勝優勝を飾り、TOP8昇格へ挑むまでになった成長力は圧倒的だ。

今回はそんなセインツのオフェンスを牽引し、オールBIG24にも選出された小泉選手と、彼が昇格の夢を託した選手に話を聞いてきた。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    ■ コーチと二人三脚でやりきった、「RBが変わればチームが変わる」


    「自分の人生の中で、4年生のあの一年間は本当に濃いものでした。オフェンスリーダーを務め、自分自身もかなり成長したと感じます。最後のTOP8へのチャレンジマッチは悔しい結果で終わってしまいましたが、やりきったという感覚が大きいです。」

    明治学院大学 小泉公平選手

    今でこそ清々しく言い切る小泉選手だが、当時はとてもそんな状態ではなかったそうだ。

    「慶應とは2021年にもTOP8昇格を掛けて対戦し、負けました。その時と比べて自分達は格段に戦えてましたし、試合中のチームも『今の俺達なら勝てる』って雰囲気だったんです。けれど、それでも負けてしまった。1年通してあれだけ練習をやって来たのに、TOP8には届かなかったんです。だからもう、悔しくて悔しくて。終わってから試合の動画を見る事も出来ませんでした。実は今でもまだ見れていないんです。」

    慶應大学戦は10-19で負け、TOP8昇格の夢は破れた

    最終学年としてチームを牽引し、オールBIG24にまで選ばれたほどの小泉選手だが、元々は試合で緊張してしまうタイプだったそうだ。

    「これまで試合に出ると、凄く緊張して自分の力が出せなかったんです。それが変わってここまでになれたのは東松コーチのお陰、あの人の存在は大きいです。」

    東松コーチとは、2021年からセインツのRBコーチに就任した東松瑛介(とうまつ えいすけ)氏のこと。東松氏は立命館大学パンサーズでライスボウル出場を経験した後、社会人ではXリーグ最高峰のX1SUPERのチーム、ノジマ相模原ライズの主将に就任。更に2014年には日本代表にも選ばれたほどの人物だ。

    東松コーチから指導を受ける小泉選手

    東松コーチは2021年からセインツのRBコーチに就任し、小泉選手を含むRB選手への指導を開始。それからの練習は一変した。

    「コーチからは常にグラウンドで全力とは何か、全力でやっているのかって問いかけを受けていたので、試合よりも毎日の練習のほうが緊張するような環境になりました。そのお陰で試合中に緊張する事は無くなりましたし、むしろ試合が楽しくて仕方がないくらいになりました。本当に東松コーチは、自分にとって恩師と呼べるような存在です。」

    コーチのお陰で実力が出せるようになったと話す小泉選手だが、それ以外にも様々な事を教わったと話す。

    「『RBが変わればチームが全部変わる』と教わりました。例えばセインツでは、東松コーチの指導でスクリメージ(ゲーム形式の練習)の時、RBがディフェンスに止められてもエンドゾーンまで走りきる事を徹底しています。RBがそうする事でディフェンス側の密集は早くなる、OLは最後まで相手DLを押し切る、レシーバーのブロックもしっかりやる。そんな風に、RBが全部の起点になるんだって事を教えて貰いました。本当に東松コーチが来てからはチームのスタンダードが上がりましたし、あの人がいなかったら、セインツはここまで来れなかったと思います。」

    最後に昇格を託す選手は誰かを聞いた。

    「橋本一輝(はしもと かずき/3年)が凄い活躍をしてくれるのは間違いないと思います。彼の足の速さ、加速は自分にはないものですね。ちょっと悔しいくらいに羨ましい走りをするんです。RBが持つボールは、そのボールに触れないOL、サイドラインのスタッフ、そういうチームの思いを背負ってるものなんです。だからRBはボールを決して離してはいけない、その責任と熱さが無いとやっていけない、そんなポジションだと凄く思っています。彼にはそんなチームを背負えるような男に成長して欲しいですね。」

    ■ 敗北の悔しさ忘れず、チーム内競争力を高め続ける


    明治学院大学 橋本一輝選手

    「小泉さんともう1人の先輩RBの松葉さんは、自分達の事を一番見て貰っていました。 特に小泉さんは去年、副将としてもオフェンスリーダーとしても引っ張ってくれたので、自分にとって憧れとか目標となる存在です。」

    話すのは小泉選手が期待する橋本選手。彼は昨年2年生ながら数多くの公式戦に出場、慶應大学とのチャレンジマッチでは53ヤードの長距離を一気に駆け抜けタッチダウンし、会場を大いに沸かせる活躍をしている。

    3Qに橋本選手はタッチダウンを決め、3-3の拮抗状態を突き崩した

    小泉選手から今年の活躍を期待されている事について聞いてみた。

    「やっぱり試合に出て、自分が引っ張って行かなきゃいけないとは思います。今年度のデプス(ポジションごとに試合に出る選手の順列)が発表されて、一応自分が一本目になりましたし。」

    謙遜しながら話す橋本選手、それにはこんな思いがあった。

    「去年のスタッツ(連盟が記録した公式戦の各種データ)を見ると、あれだけ自分が走る場面を用意して貰えてプレーしたのに、記録では先輩の中村丈史(なかむら じょうじ)さんの方が上なんです。なので、データで見ればまだ自分はセインツのRBとして活躍してはいません。だからこそ今年は中村さんと競って、負けないように頑張りたいです。」

    中村丈史選手は昨年ポジションリーダーを務めた

    次に、先ほどの小泉選手と同じくセインツRBが強い理由を彼に聞いてみた。

    「コーチの東松さんです。あの人の指導で、去年は小泉さん達があそこまで無駄のない走りになってチームを引っ張ってくれました。コーチは、RBとしての走り方や考え方が凄いですし、何よりあの人自身が外国籍の選手もいるXリーグの舞台で活躍されていました。そんな人から教わる事を守っていけば、自分でも上を目指せる選手になれると信じています。」

    小泉選手、そして橋本選手の2人が口を揃えて話す東松コーチの存在は、セインツRBにとってかなり大きいものだ。そんなコーチから橋本選手は、慶應戦の後に言われた言葉があるという。

    「コーチは立命館大学パンサーズの時、ライスボウルで社会人チームに負けた事、夢に見たその大舞台を怪我でほとんど出場出来なかった事が今でも悔しくて、でもその悔しさがあるから、今でもアメフトに対して熱くなれる、それを力にするんだって話をされるんです。僕たちは去年、BIG8を全勝しましたがTOP8へのチャレンジマッチに負けて昇格できませんでした。その時に東松コーチから『この悔しさを忘れたら終わりだよ』と言われたんです。」

    慶應戦後にチームに語りかける東松コーチ

    あの時の自分たちと同じ思いを東松コーチは経験した。だから自分達もコーチを真似して、あの時の気持ちを忘れないで、それを今年の糧にして、アメフトに取り組んでいくんです。」

    慶應戦を糧にして今年のリベンジに燃える橋本選手に、コーチから言われて一番強く残っている言葉は何かを聞いた。

    「コーチからは『練習のための練習をするな』って良く言われます。練習は試合で思いきり良くプレーするためのものだから、上手くやろうとするんじゃないと。あとは、練習で突き指してしまった時とかに、コーチの前で『痛い』って言うのは禁句ですね。『そんなんで痛がるな!』って言われます笑。」

    そういう話を聞くと昭和的な指導を連想してしまいがちだが、そこは違うそうだ。

    「自分達の中では厳しいとか怖い指導ではないです。『痛がるな』というコーチの言葉も、弱音を吐かないというメンタル面を教えて貰っている言葉なんです。」

    最後に、橋本選手に今年に懸ける思いを聞いた。

    「セインツは自分が入部した1年の時と比べて、どんどん成長しています。人数がどんどん多くなって、色々な選手が集まって、その分一本目で出る選手の競争も出てきます。そんな中でさらに成長して、お互い高め合って、今年一年さらにセインツは強くなれます。そのセインツで今年、自分が一番走った選手になって、BIG8のリーディングラッシャーになってみせます。」

    もう一度入替戦の舞台に立ち、今年こそ昇格を決めることができるのか。明治学院大学セインツの新たなシーズンは始まったばかりだ。

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    いかがでしたでしょうか?東海大学に続きチーム作りに掛ける思いを取材させていただきました!アメフトを始めようと考えている新入生には、是非こんな熱い思いでやっていることを伝えていただけたらと思います!

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