• インタビュー
  • 2022.09.16

『学生主体』に裏付けられた明治学院大の急成長、今季こそTOP8昇格を|DL宮島綸太郎主将

「コーチ主体でやっている大学もありますし、学生主体は目標に向かっての手段の一つでしかないです。学生主体でやっていることを、すごいよねとか言われがちなんですけど結果が残せていないので、今年でTOP8に昇格して学生主体を形にしたい」

と、今シーズンの明治学院大学セインツ主将の宮島選手は語る。

2019年に2部から1部BIG8に昇格し、昇格初年度の2020年は1勝1敗1分。2年目の昨シーズンでは2勝1敗。今年の春にはTOP8の強豪の法政大や、関西Div.1の近畿大に勝利するなど、今シーズン注目を集める明治学院大。

ここまでのチームに起きた変化の軌跡、また『学生主体』で結果にこだわる理由について聞いてきた。

▼目次

    ■ 「ぶつかる」ことに魅了され、高校2年で決めた転部


    宮島選手は付属校である明治学院高出身。中学生からバスケをプレーし、高校に進学後もバスケ部に入部した。そんな中、高校2年生の夏に急遽アメフト部に転部を決意した。

    「ゴール下のポジションだったので、体をぶつけてリバウンドやゴール下を制す、みたいなことに魅力を感じていました。バスケ部時代から体をぶつけることには自分の中で興味というか、モチベーションがあったのかなと思います」バスケ部に所属していた時から、NFL選手がハードヒットしているプレーがまとめられた動画を見るなど、アメフトに興味津々だったという。

    転部直後の心境については、不安よりも「新しい環境に飛び込むことに対して、ワクワクの方が大きかった」と語る。

    抜群のサイズで、当たり負けない安定感のあるプレーが持ち味

    2年生の転部直後はLBとしてプレーしたが、秋大会には出れなかった。その後、3年生になりポジションをLBからDLにコンバート。徐々にプレーする機会が増え、レギュラーへ定着。

    3年生最後の秋大会では当時の高校アメフト王者、佼成学園と対戦。宮島選手自身は試合中に脳震盪を受傷し、最後までフィールドに立つことは叶わず。チームは王者相手に善戦するも、惜しくも敗れた。

    「悔しいというか、なんで最後の最後の試合なのにフィールドにいないんだろって。サイドラインに入ってから、試合終わってないのに泣いてしまって。あれは心残りでしたね。最後まで同期のみんなと、後輩のみんなとフィールドに立っていたかったという思いはありました」

    「あの瞬間がすごい熱かったというか、やっぱり忘れられないというのはありますね」あの時の悔しさや心残りが、大学でもアメフトを続ける原体験になった。

    ■ 格上との入替戦に勝利、昇格と共についた自信


    入部後、1年生時のチームは2部リーグに所属。その年に体制が大きく変わり、チームのDNAが入れ替わるタイミングだった。

    現在のコーチとの関係性について「コーチは自分たちがやっているメニューに対して、もっと良い方法を提案したりアドバイスをしてくれます。逆に自分たちもこのメニューやろうと思ってるんですけどどう思いますか?とか、質問はしていますね。アドバイザーのような関係かもしれません」と語る。

    宮島選手自身は高校時代と変わらずDLとしてプレーを続け、ルーキーイヤーから試合に出場。秋のリーグ戦では、6勝1敗で2部Bブロック2位の成績を残し、当時BIG8で5位だった東海大学と入替戦が決まった。

    試合前の率直な思いを聞くと、正直勝てる自信が無かったという。「東海さんがBIG8の5位で、順位的な位置づけでは差があると思うんで、客観的な情報を踏まえたときに厳しいというのはありましたね」

    入部当初から約20kg増量、1部のOLと真っ向勝負できる強靭な体を作ってきた

    しかし、当日を迎え試合前に感じていた差はそこまで大きく感じなかったそうだ。「正直2部と差があると思っていたので、当たってみて『いけるんじゃないか』と思ってきましたね。ファーストシリーズでランをバンバン止めてたので」

    東海大のファーストシリーズを安定感のあるディフェンスで守り切り、チームは試合開始直後にオフェンスがテンポよく先制点を挙げた。そこから試合終了まで両チームのディフェンスが光り、得点は動かず。ファイナルスコアは6-0。入替戦に勝利し、長年の夢であった1部BIG8昇格が決まった。

    BIG8 5位のチームに勝利したことで、チームとしても、個人としても1部リーグで戦える手ごたえを得た試合だった。「高校の時も佼成学園に負けていたので、自分たちより世間的に見て格上としている相手に勝つっていう瞬間はめちゃめちゃ嬉しかった。来年から1部リーグでやれる喜びもありましたね」

    ■ TOP8の高い壁、目指すべき目標が明確に


    BIG8初年度の秋季リーグ戦の結果は、3戦1勝1敗1分。現在はTOP8に昇格し、当時BIG8で常に上位の成績を残していた横浜国立大との試合は10対10で引き分け、順位決定戦ではBIG8で長く戦い続ける駒澤大を20対0で完封するなど、着実にチームの成長が結果として表れていた。

    「シーズンが始まる前から、BIG8の他のチームにもやれるんじゃないかと感じていたので、実際に勝ち星を挙げてそれが確信に変わった。やっていける確信的な部分は持てました」

    新入生勧誘が成功し、部員数はスタッフを含め約150名の大所帯に

    そこからBIG8で2年目となるシーズンへ。結果が期待されるシーズンで宮島選手は3年生ながら、ディフェンスのリーダーに抜擢された。

    「4年生がなるのかなって考えていたので、ビックリしましたね。逆に自分で良いのかな?というのはありました」人生でリーダー経験をしたことが無かったこともあり、この抜擢には本人も驚いたという。

    その影響で、リーダーになった当初はプレッシャーから体重を大幅に増量し、チームのトレーニングメニューの強度も高く設定した。しかし、急激な増量と練習強度の高さでシーズン序盤に怪我をした。

    人生で初めてのリーダー、当時は不安や焦りが大きかった

    「実際自分以外にも何人か怪我人が出て、いくらトレーニングしても怪我したら本末転倒じゃないですけど、もっとチームの事を考えなきゃいけないなっていうのはありました」当時は失敗から学ぶことが多かったと振り返る。

    怪我もありながら、リーダーとして手探りでディフェンスを作り上げる中、結果は2勝1敗で昨年の成績を上回った。唯一の黒星を喫した慶應義塾大には46対7で敗戦。内容的には完敗だった。当時の慶應義塾大は、学生ながらシニアの日本代表に選ばれる選手や、現在X1SUPERで活躍する選手など、タレントを多く擁し、TOP8に近かったチームだ。

    しかし、その試合を経験したからこそ、自分たちの立ち位置が明確に分かった。「すごく差を感じたというか。2部とBIG8よりも、BIG8からTOP8の壁ってすごい厚いんだなってその時に感じましたね。上を目指すうえで、格上のチームと当たれたことで、目指すべきポイントが明確になったんじゃないかなと思います」

    3年生のシーズンを終えてみて、1年生の時に見てきたチームと比べて、『学生主体』で戦う文化がチームに出来始めていることを感じていたと宮島選手は話す。「自分含め同期や全然リーダーではない人からも、チームのここをこうした方が良いんじゃないかとか、意見が積極的に生まれていて、学生主体が形になってきたんじゃないかなと3年生の時に実感しましたね」

    ■ 約150名の部員全員と面談、「選手とスタッフ全員で」


    そこから迎えた今シーズン。幹部を決めるために部員全員に取ったアンケートではほとんどの選手、スタッフが宮島選手に投票。「自分がやるしかないというか、自分にしか出来ない自信に繋がった」と話す。

    チームの理想像について、昨シーズンの慶應義塾大戦の敗北があったからこそ、今年は本当の意味での学生主体を追求したいという。

    「コーチ主体でやっている大学もありますし、学生主体は目標に向かっての手段の一つでしかないです。学生主体でやっていることをすごいよねとか言われがちなんですけど、結果が残せていないので今年でTOP8に昇格して、学生主体でやっていける、っていうのを形にしたい」

    チームがここまで築き上げてきた文化をより磨き、結果に最後までこだわり続ける。学生主体でやれることを証明する。そんな強い意志を感じた。

    例年よりも力を入れている取り組みとして、チーム内のコミュニケーションの機会を昨シーズンよりも大幅に増やしているという。

    学年やポジション関係なく、積極的にアドバイスする姿が印象的だった

    今シーズンに入り宮島選手が提案し、毎週日曜日の夜に2時間程度、選手とスタッフの幹部を含めて、振り返りや意見など部員から出た要望をミーティングで細かく共有。練習前に短い時間でもメンバーで集まり、前日の練習での反省を踏まえた取り組み方など、常にチームを成長させるために様々なことを話し合っている。

    提案したキッカケについて、「選手主体って言葉もあると思うんですけど、選手とスタッフを分けるんじゃなくて、『選手とスタッフ全員で』っていう思いが自分の中であって。例えばボトルを渡したりとか、ビデオを撮るとかだけで終わらずにスタッフだけでもこういう風にしたいとか、こういう運営方法の方が良いんじゃないかとか。意見を聞くことがすごく重要かなと思いますね」と語る。

    宮島選手は幹部やスタッフだけでなく、下級生からの意見を大切にしたい思いがあった。そこで、約150名のチームメイト全員、一人ずつと面談を行った。「全員と面談して、その人のキャラクターだったりとか、あとはこの人、意外とリーダーいけるんじゃないか?とかも考えながら面談をしました。1年生の中でも、もっとチームのこういうところを良くしたいんですよ、とか意見を持っていう子もいて。それは面談しないと分からないんで、やってよかったなって思う瞬間はたくさんありますね」

    一人一人の個性や資質を客観的に可視化するために、自己分析ツールも外部から新たに導入し、チーム全員に受験してもらったという。面談を行ったことで、日々の練習でのコミュニケーションが増えたり、上級生に意見を言いやすい雰囲気づくりなど、チーム内に新たな文化を作ることが出来た。

    ■ 春に残した結果、秋にはもっと大きな変化を


    「今年これまで踏まえて思うのは、フットボールの実力が確実に上がっていっているのは、結果として目に見えたのかなと思いますね」

    春のオープン戦では、関東TOP8と関西Div.1の強豪チームとの試合を経験。4戦3勝、近畿大と法政大に勝ち切るなど、十分手ごたえのある結果だった。

    ■春季オープン戦 結果
    近畿大学 13 –  31 明治学院大学〇
    早稲田大学 20 – 14 明治学院大学×
    法政大学 25-28 明治学院大学○
    青山学院大学 17 – 70 明治学院大学〇

    しかし、現状のチームに宮島選手は満足しておらず、TOP8昇格のためにはまだまだ詰め切れていない部分が多いという。

    練習後にチームメイトに語りかける宮島選手

    「もちろん変化は起きてきてはいるんですけど、まだまだ。4年生がもう少し全員で引っ張っていけたら、チームはガラッと変わるんじゃないかなと。4年は人数も多くて30人弱ぐらい。全員が変われば後輩もそれを見て真似すると思うので、30人の変化が100人ぐらいの変化に変わるじゃないですけど、チームの中でもより大きな変化が起きると思います」

    TOP8昇格を現実にするために、今できることは何なのか。宮島選手は主将として、すべての行動が試合でのプレーに繋がる事、慢心せず細かい部分までこだわる事を常にチームへ求め続けている。

    「もっと細かい部分にこだわってほしい。練習中のアップ(ウォーミングアップ)でも全員笛でスタートしなきゃいけないのに守らないとか。それがアメフトに繋がったときにフォルススタートに繋がったり。そこまで注視出来ればプレーの精度も上がっていくのかなと」と強く語る。更に上のステージにチームを上げるため、最後まで突き詰める覚悟を持って戦う。

    近年でチームの規模も実力も、着実に実力をつけている明治学院大学。宮島選手も「一つの節目のシーズンになる」という。シーズンを戦い抜くうえで、大切にしているチームフィロソフィーは「愛されるチーム」。

    「あくまでも勝利は目標であって、目的じゃないので。自分たちが目指す愛されるチームを実現するためにも、勝利だったりとか、尊敬だったり感謝っていうのは、自分たちをサポートしてくれる人に伝えていきたい」

    秋季リーグの初戦は、奇しくも3年前の入替戦で勝利した東海大。
    4年間の思いを胸に、TOP8昇格を全員で獲りに行く。

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