• インタビュー
  • 2022.09.09

「全員」で泥臭いフットボールを、日本一まで駆け抜ける|立教大学ラッシャーズ 松元葵

関東TOP8に所属する立教大学ラッシャーズ。昨季は最終節で日本大学をアップセットしたものの、1勝2敗と悔しい結果となった。約2年ぶりに7試合のリーグ戦が行われる今シーズンに再起を図る。

「4年生になった時に、やっぱり自分が一番日本一に対する思いが強いという自負があったので、立候補しました。」

そう語る主将のLB松元 葵(まつもと あおい)選手に主将になったキッカケや、今シーズンから始めた新たな取り組みなど、ラストシーズンへ懸ける思いを聞いた。

▼目次

    ■ 誰よりも、日本一に貪欲に


    主将になった経緯について、本人はこう語る。「主将に決まった時に自薦と他薦があったんですけど、自分自身で立候補したのもそうですし、4年生のメンバーからもやってほしいという声もいただいたので引き受ける形になりました。」

    松元選手は付属高である立教新座高出身。高校時代からアメフト部で日本一を目指し、大学入学当初から主将をやるつもりだったそうだ。

    小柄ながらサイズをもろともせず、どんな相手でも果敢に挑戦する

    「高校の時にクリスマスボウルを目指してやっていた中で、日本一になるために色んな事を試行錯誤して、結果的に日本一になることは出来ませんでした。その悔しさを晴らすのは大学の舞台しかないと思って」

    入学後、2年生のタイミングで高校と大学にある大きなレベルの差を痛感した。

    「当時の4年生に自分と同じポジションの先輩がいたんですけど、その人はフットボールのIQも理解度も高かったので、なかなか試合の出場権が得られなかったんです。自分はフットボールIQ、というよりは感覚で動いてしまうタイプなので、なかなかチームのディフェンスに順応することが出来ませんでした。そこでレベルの高さを感じたというか、『自分ダメなのかもしれない』と思ってしまった時期はありましたね。」

    高校よりも戦術面やプレーのレベルが非常に高くなる大学アメフトの壁に当たった松元選手は、練習中の動画やアサイメントブックをひたすら読み込んで、分からないことがあったらすぐにディフェンスコーディネーターや先輩へ聞くことを継続した。

    「結果が出たなと思ったのは3年生の時に初めてスターティングメンバ―に選ばれた時。比較的落ち着いてプレーできている実感はありました。もしかしたら戦術とかIQが上がったのかもしれないと思いましたね。」

    主将でありながら、今はディフェンスの中心選手としてもフィールドで存在感を見せる

    努力が実り、ついに3年生時に初めてスターティングメンバ―に入ることが出来た。嬉しい気持ちが大きいと思いきや、当時はそうではなかったそうだ。

    「2年生の時に自分と同じポジションの先輩が一人しかいなかったので、その4年生が引退された時に『自分はやるんだ!』っていう覚悟を決めていました。なので選ばれた時は嬉しかった、というよりも責任感のほうが大きかったです。」

    ■ 組織力で勝つ、辿り着いたシンプルな答え


    今季のチームについて聞くと、松元選手はこう答えてくれた。
    「高校からずっと立教のアメフト部にいるんですけど、毎年他の大学と比べて一人で戦況を変えられるような選手やタレントと呼ばれるような選手が極端に少ないというのが立教大学の一つの弱みなんです。」

    TOP8はどのチームにも1~2人必ずビッグプレーを起こせる選手がいる。松元選手は7年間のアメフト人生での経験から、その大きなアドバンテージをチームの力で覆そうと決意した。

    立教大学ラッシャーズは1934年に創部された日本アメフトのルーツ校といわれている

    「そこを克服して勝つためには全員で泥臭くフットボールをするしか方法がないと思っているので、試合に出ている選手だけではなく、出場機会をもらえていない選手やスタッフを含めた組織力で勝つのが立教らしさなのかなと自分では思っています。それが長年立教でやってきた中でたどり着いた結論ですね。」

    組織力で勝つために、大切にしていることはどんなことなのか。答えはシンプルだった。「去年から選手や部員、コーチも含めたコミュニケーションをとても大事にしています。チームのスローガンにも「一体感」を掲げているので、特に今年のチームは学年やポジションの分け隔てないコミュニケーションを大事にしています。」

    「立教大学は授業を受けるキャンパスとアメフト部が練習するフィールドが離れており、なかなか全員が揃って週6日しっかり練習が出来る環境ではないためコミュニケーションを意識している理由の一つです。」と松元選手は言う。

    「以前は1年生と4年生みたいに学年が離れているとコミュニケーションが少なくなっている印象がありました。上下関係がすごく厳しいわけではないんですけど、コミュニケーションの数は歳が離れれば離れるほど少なくなっていたかなと思います。」とも話す。

    また、チーム内コミュニケーションをより改善するため、今季からチーム内で『バディ制度』を導入した。ポジションや学年に囚われず、2人組や3人組の小グループを作り、ウエイトトレーニングに取り組んだり、練習外でコミュニケーションを取っているとのこと。

    松元選手自身も、この取り組みの効果を実感しているそうだ。「(バディ制度は)まだまだ活用できるし伸ばせると思います。同じポジション同士でバディを組むことが多かったんですけど、僕は2個下の同じポジションの子とバディを組んでいて彼から刺激をもらうことも多かったです。見習わないといけないなと思う部分もあったのですごく充実したバディだったと思います。」少しずつ、チームに新しい風が吹いていることを感じられる。

    ■ 準備と改善、努力は報われる


    高校時代から7年間、アメフトをプレーし続ける松元選手へアメフトから得たことを聞くと「ありがちですけど、努力は報われるというのはアメフトを通して感じました。」と話す。

    それは高校3年生時に地区大会の準決勝で、前年度に決勝戦で負けているチームと当たった時の経験が大きかったそうだ。「そのチームに勝つために夏休みにひたすら試行錯誤して準備をしていました。いざ本番の試合になった時に、準備の甲斐があったのか勝つことができて、そこで努力した経験は絶対に結果へ繋がるというのを学びましたね。」

    昨季の最終節である日本大学戦でも似たような経験をした。「初戦の中央戦で負けて法政戦で負けて、次の日大戦に負けてしまうと7位8位の決定戦になってしまうという過酷な状況の中で、どうしても勝ちたいというところで準備を重ねていきました。結果、勝つことが出来たというのは本当に努力の賜物だったと思います。アメフトを通して自分が学んだのは、『努力は必ず報われる』という事です。」

    日本大学にアップセットした当日、サイドラインの雰囲気やフィールドでの戦い方は、前の2試合よりも大きく変わっていたことを強く感じていたそうだ。「ディフェンスは中央戦と法政戦で相手にタッチダウンを取られる度に雰囲気が悪くなってしまっていたんですけど、日大戦の時は点数を取られようが絶対に雰囲気を落とさないというのを意識して練習に臨んでいたので、ディフェンスとして雰囲気が落ちることはなかったです。それが功を奏したのか後半はタッチダウンを取られることはなく試合を運ぶことができたので、日大戦は特に準備した甲斐がありました。またディフェンスの雰囲気を落とさずにできたのも全員の意識が変わったからだと思います。」

    昨年の最終節で経験した徹底した準備とチーム自体に感じた意識の変化。今季は初戦の慶應義塾大学戦から、昨年の最終節のレベルまでチームを仕上げることが目標だ。

    ■ 「一体感」を持ち、昨季を超える


    最後に、今年のリーグ戦で一番思い入れがある試合を聞いた。「今年の(1部TOP8)Bブロックに関して言えば、例えば慶應だったら自分たちが高校の時に慶應に負けて引退しているので、勝ちたいという気持ちもあります。あとは法政だったら高校の時に地区大会の決勝で負けた千葉日本大学第一高校のQBがスタメンでいるのでそこにも絶対勝ちたいという気持ちはありますね。」7年間、本気でアメフトをしているからこそ、ラストシーズンにはより一層の思いが溢れる。

    「明治にも今年の春シーズンに結構なやられ方をしたので、そこも絶対に勝たなきゃいけないという気持ちもあります。日大は去年は自分たちが勝っているので、向こうは絶対に立教を倒してやるっていう気持ちで来ると思うので、そこも絶対勝ちにこだわらないといけないと思っています。なのでどの試合かって言われるとなかなか選べないんですけど(笑)。」

    常にハツラツとした表情で、チームを引っ張っていく主将らしい姿が印象的だった

    「全員」で泥臭いフットボールを貫き、最後まで駆け抜ける。立教大学ラッシャーズは9月11日、慶応義塾大学と運命の初戦を迎える。

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