- インタビュー
- 2023.01.20
サイドラインのもう一人の選手、チームの「頭脳」アナライジングスタッフ達
- #上智大学
- #大学
部員「アメフトどうですか?」
新入生「あ、大丈夫です」
「これじゃあ声掛けしてないのと同じ。どうにかして新入生と話すんです。
『一発ギャグするから止まって!話聞いてほしい!』でもいいから。声掛けはコミュニケーションなんですから。」
話すのは上智大学ゴールデンイーグルスの新旧新入生勧誘(新歓)リーダーの2人。今回は東大ウォリアーズに続き、新歓に成功している上智大学にお邪魔して話を聞いてきた。
▼目次
記事・写真:三原 元
竹内「僕らが新歓に向けて動き出すのは前シーズンが終わった直後。オフに入ったら直ぐ準備に動き出します。引き継ぎはありません。新歓に関するノウハウは全員が知ってる状態です。」
話すのは昨年新歓リーダーを勤め、今年度主将となった4年DL竹内 虎ノ佑(たけうち とらのすけ)選手。新歓に引き継ぎが無いのは、各学年に新歓担当が存在し、年度が上がるとそのまま役職を継続するため。引き継ぎが無い為に効率よく新歓を行えるそうだ。
画像左:昨年度新歓リーダーの4年DL 竹内選手
伊東「 新歓に関する話し合いでは絶対に新2年生を入れます。彼らが一番新歓された体験がフレッシュでホヤホヤなので。彼らの感覚を取り入れて、部員全員で話し合って、去年これは失敗した、あれは成功したって話して改善していきます。」
そう話すのは今年度新歓リーダーの4年TE伊東 雅晃(いとう まさあき)選手。これまでの新歓は担当者だけでやっていたが、コロナ禍で新入部員が激減。このままではヤバいと、現在では全員で新歓に取り組んでいるそうだ。
今年度新歓リーダーの4年TE 伊東選手
竹内「新歓用にTシャツを作って全員で着て、一目見ただけでアメフト部って分かるようにします。それ以外にもユニフォームを着て歩いたり、ビラ配ったり、とにかくアメフト部が新入生に目立つ事を意識しています。」
工夫は見た目だけではなかった。部員全員を本気で新歓に取り組ませるため、彼らはある仕組みを作った。
竹内「グループに分かれて勧誘の結果を競うんです。それで一番良かったグループにはプライズシールというものを贈呈します。」
プライズシールとは、チーム内での行動やプレーを評価された選手だけに渡される、特別なシールだ。大学アメフト日本一の関西学院大学ファイターズや高校日本一の佼成学園ロータスなど、名だたる有名校が導入している。そういったものが贈呈品に選ばれたのには、結果優先で強引な勧誘を暗に戒める狙いもあるのかもしれない。
ヘルメットに貼られているのは上智大学のプライズシール
伊東「 他の部活では『勧誘はブースだけ』と思っている所もありますが、ぶっちゃけ新入生と話せる場なんて、ブース以外にも探せばいくらでもあるんです。なのでそれを活用します。」
彼らは他の部活がブースだけで勧誘を行う中、先ほどのグループ人員を特定の場所に割り振る事で、新入生と接触する回数を増やした。
伊東「ブース、グラウンド、部室の3つを勧誘スポットとして1人ずつ置きます。そして勧誘スポットに誘導するための声掛け2人組と、臨機応変に対応するヘルプの1人で合計6人。これが1つのグループになって動くんです。」
分散して配置すれば広く対応できるが、その分各スポットは1人で対応し非効率に見えてしまうが、これには考えがあった。
伊東「勧誘ブースで伝えられる事って、僕らが伝えたい情報の一歩目に過ぎません。だから声掛けからブース、ブースから部室へと移動させる、動線のようなものを作ろうってなったんです。」
竹内「ブースは新入生と会う回数が多い反面、話す時間が限られます。だからブースで話した新入生を部室に連れて行く、そうすれば部室で無制限に部員と話せる。部室にはヘルメットもショルダーもあるから、実際にそれらを使って体験も出来ます。」
伊東「もし新入生がブースやグラウンドの部員に響かなくても、部室に連れて行けば別の部員がいるから、その部員と意気投合するかも知れない。人数が多くて色んなタイプがいるアメフト部だからこそ、動線を作ることで『AがダメならBもある』が出来るんです。」
しかし、動線を作っただけでは最初からアメフトに興味がある新入生しか来てくれない。そして悲しい事に、どこの大学でもそんな新入生はほとんどいない。そこで重要となるのが、グループに2人いる声掛け人員だ。彼らがどれだけ広く新入生に声をかけ、連れて来る事が出来るかに掛かっている。
伊東「声かけは、とにかく話しかける絶対値を増やす事が大事です。あとは話しかける2人組を男女ペアにしたり、グループの男女比を同じにして、新入生から見た印象に気をつけます。勧誘中に『逃がさないぞ』とか『来ないとダメだそ』って事はもちろんやりません。むしろ『えー?行こうよ行こうよ!』って感じで、ノリとテンポを大事にしています。」
新入生からすれば、ガタイの大きい部員は見た目で迫力、存在で威圧感を与えてしまう事もある。だからこそ新入生にどう見られるかに気をつけ、男女比や話しかけ方に気を配るそうだ。
竹内「部室にお茶とか甘いもの用意したり、ブースにもキットカット用意して、『キットカットだけ貰いにブース行かない?』とか『甘いものあるから部室行かない?』って声かけたりもしますね。あとは(キャンパス内の)路上で声掛けてブースに連れて行く時もあります。体育会に興味ない人はそもそもブースのあるエリアに行かないから。『ブースに行ってみてよ!場所が分からない?じゃあ一緒に行こうか』 って感じです。」
このように様々なやり方で声掛けをしている彼らだが、勧誘では特に意識している事があると話す。
伊東「『アメフト部って酷い勧誘する』って印象を与えない事を意識してます。新入生は基本的に受け身です。なので自分達が『じゃあ部室行こうか』って言った時に断りづらかったり、移動先のブースや部室で帰るタイミングが分からない場合があるんです。なのでブースや部室では必ず『いつでも帰って大丈夫』とか『嫌だったら直ぐ断ってOK』って言っています。」
竹内「新入生1人1人への配慮も意識する必要があります。というのも、体育会に『すごくしっかりしてて真面目』ってイメージを持ってる新入生が、新歓で盛り上げてる僕らを見て『こんなギャグばっかでおちゃらけてたなんて違う』って思われる場合があるんです。だから、新歓はただワイワイ盛り上げれば良いってワケじゃないですね。 」
上智大ではインスタライブやZoomも活用している。彼らにその使い分けやどんな内容をやっているか聞いた。
伊東「Zoomって、入るまでにパスワードや待機室があって、新入生からしたらハードルが高いんです。だから部活の事をただ知りたい人、興味がある人はインスタライブですね。インスタライブなら流し見だって電車の中でだって見る事が出来るし、自分達が『〇〇さん来てくれてありがとう』とか言わないので。そういう面でも新入生からしたらハードルが低いんです。なのでインスタライブとZoomは話す内容も雰囲気も全然違います。それこそネット上の勧誘ブースと部室みたいな感じですね。」
竹内「zoomはハードルが高い分、新入生と密に関われるので質疑応答とか、スライド使って説明したりと授業に近い感じです。インスタライブは部員同士で部活あるある話したり、入って良かった事とか話して、ホントに新入生に対しての興味付け、聞き流すラジオって感じです。あとはインスタライブってやる時間帯が大事なんです。僕らは部にマーケティング担当がいて、新入生の時間割などから、どの時間帯が一番新入生に見られやすいのかをしっかり教えてくれます。」
大学生活を送っていると、いつの間にか授業も部活も、周りは気心知れた仲間だけになる。しかし新歓で相手にするのは、自分の事を全く知らない新入生だ。そこでは0の状態からコミュニケーションをする必要がある。そんな新歓を通して、何か得たものがあるかを聞いてみた。
伊東「新入生との会話では、ただ良い事言っても伝わらない、『実はこういう事もあるけどね』って正直な部分を見せて、それで初めて心を開いてくれる事もありました。そういう、気持ちとか伝え方の部分は営業というか、大げさですけど社会での全ての事に共通しているのかなと思ったりします。」
竹内「彼らにアメフトの良さや楽しさを伝えるためには、自分達にとってアメフトがなんで良いのか、なんで楽しいのかを言葉にする必要があります。入部してもらうために、自分が勧誘される側ならどんな部活に入りたいか考えてみるんです。例えばダラダラしてる部活に入りたいか考えた時、自分なら入りたくないと思う。だから部活でダラダラしない。そうやって改めてアメフトや自分達に対して考え、色んな気づきが生まれ、アメフトが好きになったり自分達の行動が改まったりしました。」
最後に、2人にどんな新入生に入部してほしいか、どんなタイプが活躍するか聞いてみた。伊東「スポーツに限らず、昔から何かやり続けてる人は活躍します。それが球技でなくても、スポーツですらなくていいんです。 ピアノでもベースでもジョギングでも空手でも、何かに没頭する面白さを知ってる、オタク気質の人。そういう人が入部して、ある時に『あ、アメフトって面白い』って気づいた瞬間。そこからの伸び率がエグいんです。」
竹内「運動能力が高い人や、アメフト経験者とか、ポテンシャルが高い人が入部してくれるのは勿論嬉しいです。けど、僕たちのモチベーションって如何にそういうものが低い人をレベルアップさせて、試合で活躍させるかなんです。新しく入ってきた人がレベルアップして、それで試合で活躍してるのを見ると、嬉しくなるんですよね。だから新入生には『君なら絶対できる』 『最高の4年間にするから』って、自信を持って言えるんです。」
2人の話からは、勧誘する側の部員がどれだけ自分達のチームやアメフトに自信や誇りを持っているか、そういう内側の部分が新入生に入部を決断させる、最後のひと押しとなっているように思えた。上智大が新歓に成功している要因はそこにこそあるのかも知れない。
以上が上智大学から聞いた内容となる。今回の取材内容が少しでも他チームで今後の新歓の参考となれば幸いだ。