• インタビュー
  • 2024.03.19

躍進の原動力となった「勧誘力」、ひたむきに伝え続ける|立教大学アメリカンフットボール部

「目の前を通る新入生に声をかけても、イヤホンをして素通りされるなんて当たり前。新歓は経験した事のない気疲れというか、元気がなくなるような疲労感ばかりでした」

毎年この時期になると、どのチームも苦労するのが新入生の勧誘活動。冒頭の言葉は昨年関東TOP8で2位になった立教大学ラッシャーズの部員から出たものだ。彼らは付属校にアメフト部があるものの、スポーツ推薦枠が無いためTOP8の他校のように経験者を獲得することも難しい状況にある。上位リーグで活躍する彼らでも、新歓には毎年のように苦労していることを教えてくれた。

しかし近年非常に重要な役割を果たしているスタッフ達を全て新歓で獲得しているのも事実だ。先日Andrew Luckを招いて話題のラッシャーズの新歓リーダー4人に、彼らの新歓の取り組みについて話を聞いてきた。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    ■ 新歓は目立つイベントで注目を集める


    昨年2023年の新歓はコロナによる様々な制限が無くなった初めての年。そんな年にラッシャーズではどんな取り組みを行ったのか聞いてみた。

    八木「コロナの間は新歓で大声を出したり、そもそも人が集まるのがダメでした。昨年はそれらが解禁されたので、アメフトに興味を持って貰えるような目立つことをしよう、と考えてアメフトのデモンストレーションをしました」

    新4年のLB八木皇太郎選手は立教新座高校で主将を務めていた

    実際のデモンストレーションはどこでやるかが大事だ。折角デモンストレーションを行っても周りに人が居なければ効果がない。そこで彼らはキャンパスで一番人目を引く時間と場所を選んで行った。

    平本「場所は色々な部活の新歓ブースが集まる広場の中心。そこで1on1やタックルの実演をしたり、毎試合の試合前にやっている『ハイプアップ』をやりました。やった内容は勿論のこと、人が一番集まる昼時にやったので他の新歓ブースにいた新入生にも注目されて、かなり話題になることが出来ました」

    新4年QBの平本優真(ゆうま)選手は卒部したQB宅和選手の後を継ぐ

    新入生の中にはアメフト部の存在をそもそも知らない人がいる。むしろほとんどの新入生がアメフトという競技を知らないのが現実だ。だからこそ、まずは学内で目立って部活を認知してもらう事が非常に大事になる。その意味でデモンストレーションはかなり効果があったそうだ。

    チームではその他にもオフラインでの様々なイベントを開催しており、中でもメインとなる大きなイベントが、「ラッシャーズデイ」と呼ばれるものだ。

    鈴木「ラッシャーズデイではアメフト部専用グラウンドに新入生を招いて、練習見学や新入生も参加出来るイベントをやっています。実際にこのイベントで入部を決めてくれる人が毎年かなり多いです」

    チームのSNS運用も担うマネージャーの新4年鈴木晴さん

    そう話す鈴木さんもラッシャーズデイで入部を決めた1人。彼女に入部の決め手を話して貰った。

    鈴木「当時参加したラッシャーズデイが結構盛り上がって、その時の先輩達のグラウンドでの様子や、部員の人達が仲が良さそうなのを見ていいなと思ったのが決め手でした。私は直感で決めるタイプなので、もう本当にその時に入部を決めました」

    鈴木さんのような直感型でなくとも、実際にグラウンドに行って部活の様子や雰囲気をリアルに体感する事で得られることは多い。コロナでオンラインが主流になったからこそ、実イベントでの雰囲気がより大事になってくる。また、ラッシャーズで行われる各種イベントは、参加したら強制的に入部させられるようなことは絶対に無い。新入生には友達作りを兼ねて気軽に参加して欲しいとのことだ。

    ここまでのリアルな活動に続いて、最近彼らが力を入れているSNSでの勧誘活動について聞いた。

    ■ SNSはVLOG動画で日常を伝える


    まずは広報担当でもある鈴木さんに、ラッシャーズの公式アカウントとは別で運用している新歓アカウントの運用について話して貰った。

    鈴木「公式アカウントは都度都度何かあるごとに投稿をするのが基本ですが、新歓アカウントはそうでなく、チームについての基本的な情報をどんどん貯めていくのがスタンダードなやり方です。」

    公式アカウントとやり方が違うと話す新歓アカウントには、新入生からの見られ方が関係していた。

    鈴木「新歓アカウントでは、そもそもアメフトって何なのか、ラッシャーズって何なのかという情報から投稿をし、その次にポジションの紹介などを投稿して情報を貯めていきます。そうすればチームに興味を持ってくれた新入生が溜まった投稿を下から辿って情報を取っていけます」

    様々な情報を投稿する中でも、特に最近力を入れていることがあるそうだ。

    鈴木「動画で普段の部員の様子を伝えることです。新入生が1番気になる情報って、部員の1日の流れだったり、スタッフが実際にどんな事をしているのかなので。それらを伝える手段として動画が1番効果的でした。例えばインスタグラムのリール動画は再生回数がかなり伸びましたし、インスタライブも昨年から多めにやっています」

    鈴木さんは注意する事として「こちらが伝えたい事だけを伝えないようにしています」と話していた。そのため動画では伝えたい内容だけでなく、選手やスタッフの何気ない会話を入れるなどして新入生にチームの雰囲気など知りたい情報が伝わるようにしているそうだ。

    インスタライブの様子(画像はチームより提供)

    また、動画で一番反応の良かったものは何かという質問に対しては「選手やスタッフの1日を撮ったVLOG形式の動画です」との返答だった。しかしVLOG形式の動画を撮ると言っても、頼まれた部員が何を撮ってどう編集すればいいか分からなかったり、頼んでも断られたり、思っているものが出来上がらないこともあったそうだが、ここにも工夫があった。

    鈴木「VLOGを撮ってもらう選手やスタッフには『とにかく日常を沢山撮ってきて』と伝えました。朝起きた瞬間から撮って、ご飯食べてる時も、ウェートしてる時も、寝る前に歯磨きしてる時まで全部を撮るだけ。編集はこちらでやるから、もうとにかく日常を沢山撮るだけでいいよと。」

    そういった工夫を行うことで、新入生に好まれる動画を作ってきた。新歓では様々な事を部員に頼む必要が出てくるが、その時にいかに相手が協力しやすくするかも重要だ。ラッシャーズではVLOGの頼み方にあるように、上手く仕事を分担して回す事で部員の協力を得やすくし、様々な施策を成功させているようだ。

    ■ 新入生に「入部した自分がイメージ」出来る関わりをする


    新1年生は当たり前だが大学生活が初めて。だからどんな学生生活を送りたいかはまだ漠然としたイメージを持っているだけの学生が多い、と平本選手は話す。

    平本「新入生と話して感じるのは、単純にバイトして遊びたいって思っている人が多いという事です。漠然とそう思っているからこそ、練習が多めの部活がネックに感じてしまう。だけど僕たちの感覚からすれば、部活をして日本一を目指しながら遊ぶ事なんて全然出来ます。世界一周するくらいの遊びでなければ何だって出来ますし、友達と一緒にいたいんだったら多分家族より一緒にいます。それを話すと、ハッとする新入生がこれまでかなりいました」

    ラッシャーズで行っている新歓は、新入生に対して「学生生活をどのように具体的にイメージして貰うか」という関わり方が中心にあるようだ。特にそれを強く感じたのが新歓リーダーの竹下さんの話だった。

    竹下「1年生の時ってこれからの大学生活が想像できないし、やっぱり分からない事が多いと思います。私も新4年生になった今だからラッシャーズに入って良かったと思えますけど、それを1年生の時にわかったかと言えば無理です。だから1年生とは1人1人としっかり話をして、それぞれがどうしたいかを親身になって聞いて、目の前の1人に対して『それならこんな事がこの部活で出来るよ』って会話をする事をすごく意識しています」

    新4年で新歓リーダーも務めるマネージャーの竹下真優(まひろ)さん

    1人1人に親身になった対応を行うのには、スタッフだからこその問題があった。

    竹下「やっぱり「日本一を目指してます」って話しても、1年生からすれば入部した自分がスタッフとしてどう貢献できるかをイメージしづらいものです。だから1人1人が考えている事に、私たち側がどう寄り添うことが出来るか、そういう考え方が大事になってきます。その為にも個々に合わせたコミュニケーションが大事です。目の前の1年生と1回話をした事は忘れないで覚えて、前回この話をしたから今回はあの話をしてみようって試行錯誤をしてきました。スタッフではそういう対応が一番響いたかなと感じます」

    竹下さんの話すやり方は1人1人に対応するため。勧誘に関わる部員の負担が増えてしまう可能性もある。しかし新入生からすれば、目の前の先輩となる学生がそこまで親身に関わってくれる事で、チームがただの人数欲しさや誰でもいいから入部して欲しいと考えているのでなく、ラッシャーズが本当に『自分』という1人の存在を必要としているのだと、より強く伝わるだろう。

    ■ 体育会系にイメージする泥臭さ、努力の価値


    平本「大学生になって体育会系に入るのはダサい。そう思ってる新入生も中にはいると思います。体育会系は泥臭くて、上下関係もあって、そういう環境で努力するのはカッコ悪いってイメージがあると思う人もいると思います。」

    平本選手が話すような新入生に対し、それぞれ思うことを話して貰った。

    八木「努力することに対してカッコ悪いと思ってる人に対して思うことは、それが何かに打ち込んだ経験を踏まえて言っているのであれば分かりますが、これまで経験した事が無いのに言っているのであればちょっと違うと思います。自分の人生を長い目で見た時に、何かに打ち込む経験があってもいいと思うし、1度飛び込んでみる事で感じる事があると思っています」

    鈴木「大学生って学業以外の時間の使い方は本当に人それぞれだと思います。留学する人もいれば、4年間バイトを頑張ってめちゃくちゃ稼ぐ人もいる。そんな色々選べる中の1つに体育会というものがあると考えて欲しいと思います。学生生活最後の4年間で、1つのチームに所属して、1つの目標に向かって頑張る事が出来るのが体育会の良さじゃないでしょうか。入学した人たちにはどれが良いか悪いかではなく、1つの選択肢として体育会があるんだと考えて欲しいです」

    平本「その体育会の中でも、ラッシャーズは体育会っぽくないよねってよく言われます。変なルールとか、上下関係とか、その他にも色々体育会にもつイメージがあると思いますが、そういうのが僕らにはありません。ただし泥臭さはあります。これはなぜかと言えば日本一という目標のためにですし、その為に部活に打ち込むんだと理解できればダサいという感覚は自然と解消していくんじゃないかなと思います。」

    最後に新歓リーダーの竹下さんに新歓で1番伝えていきたいことは何かを話して貰った。

    竹下「大学生だからサークルに入ったり、バイトを頑張ったりと色々選べる中で、ラッシャーズは自分が輝ける場所を見つけられる場所であることを伝えていきます。もちろん人によってラッシャーズの何に魅力を感じるかは違います。ある人は日本一を目指す事に、別の人は楽しくやる事に魅力を感じる。けれど全ての人に共通しているのは、入部して後悔しないという事。ここでは自分が夢中になって頑張れる事をしっかり見つけられる、それがラッシャーズだよと伝えたいですし、ここに入れば間違いなく良い4年間に出来るって事を新入生1人1人に伝える努力をしていきたいと思います」

    チーム許可のもと、記事の最後にラッシャーズ新歓SNSの各種QRコードを貼ったので、実際にSNS上でどんなコンテンツを作っているのか興味のある人や、今年立教大学に入学する人は見ていただきたい。

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