• インタビュー
  • 2024.03.29

リーグ最下位からの下剋上、「泥臭く」取り組んだチーム改革|青山学院大学アメリカンフットボール部

2年前のリーグ最下位から昨年リーグ3位の下剋上を果たした青山学院大学ライトニング。彼らは連盟が選出するオールBIG8に6名が選出された。

今回はその中から新4年生となるOLの脇谷亮祐(りょうすけ)選手とDLの島村武尊(ほたか)選手から昨シーズンを振り返って貰い、彼らがどんなチーム作りをしてきたのか、また今年の抱負について聞いた。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    ■ リーグ最下位をバネに『負けても崩れない』チームへ


    島村選手は昨年を振り返り「降格するのは青学だろうと思われていた」と話すが、シーズンが終わってみれば彼らはリーグ3位、反対に上位に名を連ねると思われていたチームは成績が振るわず降格と、まるで立場が逆転したかのような結果となった。そんな昨年のシーズンを島村選手はどう見たのだろうか。

    「リーグ昇格を絶対目標に掲げたチームって、一度負けて昇格できないってわかると、そこで目標を失ってチームがバラバラになり、落ちていってしまうんだなと痛感しました」

    島村選手が「それは僕らのチームでもあり得たこと」と話すように、彼らはリーグ初戦から2連敗していた。初戦の桜美林大学は夏前から準備をして挑んだが負け、次戦の日体大も僅差で負けている。しかし彼らは初戦から2連続で負けても士気が下がらず、チームがバラバラになることもなかった。更に彼らは残る5試合全てに勝利し、ついにはリーグ3位という結果を打ち立てた。そこにはリーグ最下位だった姿はどこにもない。彼らの躍進には2年前の経験がいきていたと島村選手は話す。

    島村選手「(2年前の)チームは負けが続いて、本当に良い雰囲気ではありませんでした。負け癖がついてしまったというか、試合する前から相手を見て「勝てないかも」と考えてしまうような雰囲気。もうチームとして傾いている状態といってもいいくらいな感じだったのを覚えています。だからあの時と違うチームに、負けても次は必ず勝つんだ、勝てるんだと、また戦えるチームになることが必要でした」

    そのために彼らは昨年主将の西川選手や森HC主導のもと、チームビルディングに取り組んでいた。

    島村選手「(チームビルディングで)重視したのは、1つの方向を向いて行動出来るチームへと変わる事でした。全員が目標に対して同じ方向を向き、全員で努力が出来るチームになる。けれど安易に目標だけを追い求めないで、1つの試合、目の前のことを着実にやる。そうすれば負けてもチームが傾くこと無く、次の試合は必ず勝つんだと挑めるチームになります。その為に何度もミーティングを重ねて来ました」

    島村選手が話すミーティングに関しては、昨年取材時に西川選手もこんな話をしていた。

    西川選手「いまライトニングに必要なのは1人1人が自分で考え、当事者意識を持って目標に向かうこと。チームの一員だと自覚をもち、自分がこのチームでどうなりたいかという願望をもつ事が必要。このチームで勝ちたい、自分がこのチームを変えたいっていう欲求というか思いが必要だと。なのでメンタルコーチに何度もミーティングを開いて貰いました。ミーティングは普段言えない事を紙に書いて共有するものだったり、チームの年表みたいなものに1人1人がどうなっていたいかを書き込んだりと、色々やりましたね。もう、今までの取り組みのままではライトニングが絶対勝てない事は理解していましたから」

    西川選手やコーチ陣のこれら取り組みによって島村選手の言う「負けても傾かない」チームに変化できたことがライトニングの昨年躍進の理由の一つなのかもしれない。

    ■ スピード重視のオフェンスで勝つ 4年OL脇谷亮祐


    脇谷選手「(オールBIGに選出されたことに対して)何というかびっくりな感じです。自分そんな強かったかなという感覚なので」

    選ばれたことに対して謙遜する脇谷選手に、昨年のチームに点数をつけてシーズンを振り返って貰った。

    「60点です。当時の僕らは、初戦であの桜美林に僅差で負けるなんて思ってなかった、多分大差で負けるだろうって思ってました。そんな相手にあと一歩まで迫る事ができた事で勢いがついて、その後の試合で連勝できたと考えます」

    彼らの連勝の中には、当時負け無しで桜美林大学と共にリーグ1位を争っていた駒澤大学も含まれている。しかし脇谷選手は当時のチームを振り返り「正直な話、このまま駒澤大学にも勝てるって雰囲気でしたし、アイツらの全勝記録を崩してやろうって盛り上がっていました」と話すように、チームは試合前に格上相手と戦うプレッシャーを全く感じていなかった。その結果18-12で勝利し、彼らは駒澤大学に初めての負けを刻んだ。

    しかし駒澤大学や桜美林大学など上位チームの選手と比べると、ライトニングはどうしても選手達の大きさで見劣りしてしまう。そんな体格差のある格上チームにどうして僅差まで迫り、また勝つことが出来たのだろうか。

    「(桜美林大学や駒澤大学の)DLに感じたのは、全体として重くて強い、だけどスピードはそれほどじゃないなって事でした。OLの選手って重い方が強いと感じるし実際そうではあるんですが、それに加えてスピードも大事です。ライトニングは選手の体の大きさや重さでは他のチームに劣る部分があるので、それを補うためにトレーナーが独自に考えて下さった走り込みメニューをやり続けて、スピードを上げてきました。相手ディフェンスをスピードで上回ってパスやランを通すのがライトニングのオフェンスの強さです。更に今年のライトニングはQBとレシーバーのホットラインが最低でも3つあり、これまで以上に色々な攻撃ができるという強みがあります。このオフェンスでリーグを勝っていって、TOP8を目指します」

    ■ 泥臭く最後まで仕事をやりきる 4年DL島村武尊


    「(オールBIGに選ばれて)凄く嬉しいですね。選ばれたのは自分が全試合に出させて貰った結果だと思っているので、この結果はコーチや監督のお陰です」

    周囲への感謝と共にオールBIG選出を喜ぶ島村選手に、昨年のチームと自分自身に点数を付けてシーズンを振り返って貰った。

    「自分自身は70点ですね。というのも、昨年はシーズン通して8サックの目標を立てましたが、結果は6.5サック。中にはカバレッジサックも何回かあったので、数字は目標に近いけれど中身は遠い結果だったと考えています。シーズンの試合は7試合、リーグ昇格戦が有れば8試合ですから、試合で必ず1回はサックをとって目標を達成し、活躍したかったです。チームの点数も自分自身と同じく70点。チーム成績を見ればリーグ最下位からの結果は大きいと思いますし、その意味では高い点数をつけるべきとは思いますが、やはり初戦の2試合を惜しい結果で逃してしまったのは悔しいところです」

    彼が悔しいと話す桜美林大学戦と日体大戦、その中でも特に日体大戦に悔しいものがあった。

    「(日体大戦は)僕らのポテンシャルとしては勝てた試合だったけれど、結果は自分たちのミスで、特に相手のキックリターンでタッチダウンを取られたのが最終的な点差に響いてしまったなと考えています。最終的な得点も21-30で僅差でした。その点差が凄い悔しかったというのもありますが、やっぱりディフェンスがちゃんと止めておけば、1回でもディフェンスが踏ん張って抑えて、僕自身もサックをとっていれば。それが出来ていれば、自分たちのチームがリードした状態で試合を展開出来ていたのに、という思いがあります。」

    彼にDLとして大事なものは何かを聞くと「どんな相手にも思いっきり突っ込み、最後まで泥臭くやりきることです」と返ってきた。彼の強みをより深く聞いてみた。

    島村選手「DLはディフェンスの最前線に立つポジションで、自分たちのプレーがそのまま後ろのディフェンス選手達に影響してしまいます。もし自分達が押されてしまったり、あるいはビビってるようなところを少しでも見せてしまうと、ディフェンスそのものがバタバタと倒れてしまう。だからDLは何があっても、相手OLがどんなに自分より大きくても、必ず思いっきり突っ込む。その結果潰れてもいい、とにかく最後まで泥臭く仕事をやりきることが大事です」

    最後まで泥臭く目の前の相手に突っ込むことが大事と話す島村選手には、それ以外にも大事な事があると話す。

    「パワーやスピードは勿論大事ですが、それ以上に自分の動きを観察する事ですね。DLは試合中に頭で考えるよりも条件反射のような動きが求められます。それくらい早く反応しないと相手オフェンスに対応できませんから。その為には日頃の練習から自分がどんな動きをしているか、何度も何度も繰り返し分析して修正することが必要です。分析して直した動きを練習で体に染みこませることで、試合では勝手に正しい動きが出来るようになれます」

    観察は自分に対するものと相手オフェンスにするもので違うそうだ。

    「試合では目の前のオフェンスを観察して、その動きに合わせて動きます。だからといって見すぎてもダメです。相手を観察しすぎることで、自分の動きを躊躇してしまうことになりかねません。相手の動きには当然合わせるんだけど、ちゃんと自分の最大限のスピードとパワーでスタートすることが求められますし、そのバランスが難しいですね」

    最後に今年の抱負を聞いた。

    「自分たちはいま急成長しているチームだと実感しています。その成長を止めることなく、今年も更に成長するチームになるためには、僕たち4年生が上から引っ張るのはもちろん、下から支えて末端まで目を配ること、チームの綻びになるような隙の部分を見つけて補えるようになることが必要だと考えています。今年TOP8昇格を第一の目標として、ブレずに着々と努力を積み上げていくチームにしていきます。そうすれば結果は後からついてきますから」

    ライトニングでは今回紹介した選手達だけでなく、スタッフも継続してチームの強化に邁進している。彼らは昨年7月に第一回を開催した小学生のフラッグフットボール大会に続き、今年2月に第二回目を開催、多くのチームが参加し大成功を収めている。

    エキシビションマッチでは選手も本気で戦っていた(画像はチーム提供)

    大会ではライトニングの部員達がただ大会の運営を行うだけでなく、優勝した小学生チームとスタッフや選手達が戦うエキシビジョンマッチを開催するなど、大会を通して小学生達にライトニングがより身近な存在になるような工夫もされていた。

    今年もチームを内と外からの両面で強くしていくライトニングの躍進に注目だ。

    フラッグフットボール大会後の集合写真(画像はチーム提供)

     

     

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