- インタビュー
- 2023.12.08
昨季の悔しさを糧に、捲土重来でBIG8昇格を目指す|帝京大学アメリカンフットボール部
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「今年の3月、4年生が抜けた時点で選手は15人でした。公式戦の規定人数が17人なので、このまま新入部員が入らなかったら廃部かもっていう。」
そう話すのは、成城大学オレンジビームス主将、佐々木選手だ。
彼らはそんな危機的な状況から現在、スタッフを含めた部員数、約70人を誇る大所帯となっている。彼らは一体どうやって新歓を成功させたのか、そしてチームが今シーズン目指すものとは何かを聞いてきた。
▼目次
記事・写真:三原 元
その日、話を聞きに成城大学のグラウンドを訪れた日の最高気温は35℃。そんな暑さをものともせず、彼らはグラウンド全面を使って元気に練習に励んでいた。
「あの時十分に練習ができたか、って言われると、全く出来なかったと言っていいくらいです。すごく人数が少ない中で、グラウンド半面だけの練習とか、そうなると一部の練習が出来ないので、満足した練習はできませんでした。」
佐々木選手は昨年のことを思い出して、そう話す。当時の佐々木選手は副将という役職。3年生として主将を支える片腕として活躍していた。
「コロナにかかると10日間の練習中止、というのが大学で決められていて、かなり辛かったです。去年の副将の時は、かなり焦ってました。自分達は集まれない中で、他のチームは集まって練習をした、なんて聞いて。僕たちにできるのは、本当に限られたオンラインでのミーティングだったり個人で走ったりというものでした。そういった中で、自分達で出来る事をやるしかありませんでした。」
そのような環境で迎えた2021年のシーズン、結果は2部Bブロック第2グループの4チーム中、1勝2敗という結果だった。
練習もままならず、思うような結果をあげられなかった2021年のシーズンが終わり、彼らには4年生が抜けた後の『部員15人』という公式戦規定人数未満の数字、そして廃部の可能性という現実が迫ってくる。
「尻に火がついた状態でした。」
当時のことを振り返り、佐々木選手はそう話す。
これまで成城大学は、新歓は限られた担当者だけがやっていたそうだ。
「今まではリクルート係っていう人たちだけがやっていて、チーム全体を巻き込んで、とは出来ていませんでした。今年はそれをチーム全体で動いて、情報を共有して、こういう事があったらこういう事をしようと、そういうのが新歓の成功に繋がったんだと思います。」
このままでは廃部という単語がチラつく中、尻に火がついた彼らは全員が一致団結して動き出した。
練習に全力を出す佐々木選手
しかし、ただ行動したからと言って結果が伴うわけではない。そこには、様々な成功の要因があった。成功の一つが、他の部活より柔軟に対応できたことだと言う。
「コロナ禍でオンラインとか対面とか、その都度変わる大学の方針に対応するのが難しかったんですけど。去年のリクルート係の人たちが、それを経験した上で、記録に残しておいてくれてたんです。コロナの時はこうしよう、対面の時はこうしようって。それを今年、その記録を出してきて、すぐ対応できたのが大きかったです。」
コロナ禍真っ只中での新歓を経験した卒業生は、後輩たちに向けて記録を残しておいてくれていたという。
コロナの感染状況に応じ、大学からアナウンスされる新歓の方式は度々変わった。他の部活がそれに対応できずにいる間、彼らは卒業生たちが残してくれた記録をもとに、柔軟に対応することができたそうだ。
けれど、どれだけ行動をしたところで的確な指示をする優秀な指揮官がいなければ、中々結果は伴わない。そんな彼らの前に現れたのが新監督だった。
「今年、新歓の統括をおこなったのは2人の女性スタッフなんです。彼女たちが非常にキッチリと総括してくれました。」そう話すのは成城大学監督の鶴見氏だ。
すでにご存じの人もいるかもしれないが、現在成城大学オレンジビームスの監督をされている鶴見氏とは、あの日本を代表するゲーム企業、セガの代表取締役社長を務めた人物だ。
鶴見氏は成城大学オレンジビームスのOBであり、最近まで同チームのOB会長を努めていた。そんな鶴見氏が今年から監督になり、新歓のサポートをしたのだ。
「まずは新入生のリストを作成してもらいました。その数ざっと300人ほど。けれど新歓の時間は限られてますから。なので、さらにそこから入部に前向きな生徒を分類して、勧誘の優先順位をつけて新歓を行わせたんです。毎週のようにミーティングを行いました。」
監督自らが率先して新歓に関わるというのは珍しいのではないだろうか。そして何より、新入生という名の『見込み顧客』への徹底した勧誘活動の指示と管理。鶴見氏は日本を代表する経営者。人や数字を管理するのに、これほど最適な人物はいない。
鶴見氏は経営者としてこれまで培ったノウハウを惜しみなく投入し、部員の新歓活動に様々なアドバイスや指示をおこなったそうだ。
過去の先輩たちの記録、鶴見氏という最高の指揮官、そして本気で部員一丸となって新歓に動き出した部員達。それらが組み合わさって、今年度の成城大学オレンジビームスは加入選手21人、スタッフを含めた総部員数、約70人という大所帯となれたのだった。
すでに彼らには廃部という不安は無い。
今年の新歓が成功し、多くの新一年生が入部した成城大学。たくさんの部員が入部したことは喜ばしいことだが、その反面、課題もあるようだ。
「課題はたくさんありますが、やはり下級生が大半になるので、育成やレベルアップにどれだけ自分達の時間を割いてやれるか、というのが課題です。これからチームの中心としてやって行かなければならないので。」
練習に対しての課題をそう話す佐々木選手だが、試合にも課題は残る。
「上級生の僕らは、経験のない1年生の代わりに試合には両面で出る必要があります。もう皆、覚悟を決めてます。そのかわり1年生には、まずはアメフトを嫌いにならないで欲しい、アメフトを楽しんで欲しいって、常々言ってます。試合に出られるチャンスがあったら、まずは楽しめと。」
一年生にはアメフトを楽しんで欲しいと話す佐々木選手。その言葉にはこんな思いがあった。
「やっぱどんなスポーツでも、楽しくないと上手くならないじゃないですか。モチベーションにもならないですし。でもそうは言っても、練習でも試合でも、楽しさが前面に出ちゃうとダメなので。そこは結構難しいところですけど。」
そう話す佐々木選手の言葉は、自身の体験から来るもののようだ。佐々木選手は高校まで野球一筋だった。しかし大学進学を機にコンタクトスポーツをやりたいと思い、アメフト部に見学に行ったと言う。
「凄く先輩後輩関係なく接してくれて、盛り上げてくれて、雰囲気がいいなぁと。それで入部を決めました。高校の時は何ていうか、監督から言われた事をやる、というのが多くて自分から発信するってのがなかったので。それがアメフト部に入って、一気にガラッと変わって。あ、後輩の自分でも発信していいんだっていう。」
そんな佐々木選手率いるチームに入部した、一年生達。彼ら一年生もまた、こう話す。
「(成城大学オレンジビームスは)雰囲気がすっごく良かったんです。結構暖かくて、チーム一丸で迎えてくれるっていうか。僕も含めてまだアメフトは下手なんですけど、アメフトはメチャクチャ好きって気持ちが一年皆にあります。」
主将の思いは既に一年生にも伝わっているようだ。
「ほんとに、僕たちのチームは僕たちだけでは何もできない事ばかりで。だから色々な方々に支えてもらって、僕たちはチームとして活動が出来ていると思っています。それを結果として恩返しできたら、と思っています。」
そう話す佐々木選手に、秋シーズンに向けた抱負を聞いた。
「(秋シーズンに関しては)厳しい戦いになることは間違いないです。けれど、今は練習時間も増やして、ミーティングの時間も伸ばしてアメフトにかける時間を増やしているので。僕たちの目標である1部昇格に向けて、チーム一丸となって最後までやり切ります。」
新歓で部員一丸となり、今年多くの部員を獲得出来た成城大学オレンジビームス。自らの行動で廃部の危機を乗り越えた彼らの表情は、自信に満ち溢れていた。今シーズンの彼らの活躍に期待したい。
記事・写真:三原 元