• インタビュー
  • 2024.06.10

「公園でアメフトボールで遊ぶ子供たちを見てみたい」、JADが目指す姿とは|木下典明さん・飾磨典明さん

2028年開催予定のロサンゼルスオリンピックに正式競技として採択されたフラッグフットボールに挑戦している日本アメフト界の伝説、WR木下典明(きのした のりあき)選手。

現在はサッカークラブの東京ヴェルディが立ち上げたフラッグフットボールチームに入団しプレーを続けながら、大学時代に歴戦を共にした元パナソニックインパルスDL飾磨 宗和(しかま むねかず)氏と国内でのアメリカンフットボールの普及・発展を目的とした一般社団法人Japan American football Dream(JAD)を立ち上げ日々活動している。

日本国内でもアメフトの普及に向けて活動をしている団体はそれぞれの地域の協会をはじめ多くの団体が存在するが、JADはその中でも主に第一線でアメフトをプレーする学生に向けて、安全にプレーするための技術や実戦的な技術指導に注力している団体だ。

今回はそんなJADに関して、立ち上げに至った経緯や直近での取り組みについて、木下選手と代表の飾磨氏に話を聞いた。元Xリーガーかつ日本代表として、指導者として、「する」側も「ささえる」側も経験しているお二人。そして国内アメフトの課題を合わせて聞いた。

▼目次

    ■ 立ち上げの背景は「やっぱりアメリカに勝ちたい」


    ーーまずはJAD立ち上げの背景を教えて下さい。

    飾磨さん:JADは2016年から活動しています。2015年シーズンに引退したんですが、その前にアメフト世界選手権があったんです。4年に1回の世界選手権で、2015年にも開催されました。当時僕と木下は日本代表の練習に大阪から東京に毎週土日に通って練習する生活を送っていました。

    当時大阪から東京に行くのに高田 鉄男とかも含めて一緒に行っていて、新幹線の中で色んな話をしてたんですけど、その2015年の日本代表が始まる時に「やっぱりアメリカに勝ちたいよね」と話していました。

    日本代表当時から打倒アメリカに対する思いは非常に強かった(写真:本人提供)

    「アメリカに勝つ」ことは当然目標としてはあるものの、2011年に開催された世界選手権ではカナダに負けて、アメリカと戦えずに終わっていました。そこから4年後にまたみんながもう一度集まる形でした。その4年間、他のスポーツみたいに強化合宿が毎年あったりとか、強化するための試合があったりするわけでもなく、4年間は自分たちのチームで活動して、4年後にまた集まって頑張りましょうという感じで、新しくチームづくりが始まりました。ただ、日本代表として組織を強化するキッカケがないまま試合をしても強豪国に勝つのは難しいという話もしていました。

    当時はそもそも僕らも日本代表として選抜されるかされないかかということも当然あったので、練習を頑張ってやるだけではあったんですが、今後本当にアメリカに勝つためにどうやったら勝てるのかをみんなで話していました。

    色々話した中でやっぱりアメフトというスポーツが日本で普及しないと、協会もお金の出どころがないがゆえに強化をするという発想にならないですし、やりたくてもできないというのが現状なんじゃないかと。それを踏まえてフットボールを日本で普及しないといけないよねという話になりました。

    どうにかして日本でアメフトを普及させてアメリカに戦えるチームを作ろうというのが、JADのスタートというか背景の部分ですね。やっぱりアメリカに勝ちたいというところが1番根底にありますね。

    木下さん:もう本当にその通りですね。日本でアメフトを普及させたいって思いが自分の中であって、飾磨と話したタイミングで同じ感覚というか目標があって、JADを立ち上げました。

    現在は東京ヴェルディでフラッグフットボールに挑戦する木下選手(写真:本人提供)

    ■ 「公園でアメフトボールで遊ぶ子供たちを見てみたい」、JADが目指す姿


    ーー直近でJADが取り組まれていることを教えて下さい

    飾磨さん:今、日本アメフト協会でやっている「ヘッズアップフットボール」というプログラムがあります。元々はアメリカで脳震盪問題が重大な問題になっていて、アメリカのユース世代で安全にフットボールができるためのプログラムみたいな形でスタートしました。

    安全なヒットやブロックの基礎を学生に教えている(写真:JAD様提供)

    日本で言うと特にタックルとブロックなど、フットボールにおける基礎のスキルをちゃんと教えてもらえなかったりがあるので、「タックルってこうすんねんで」とか「ブロックってこうするのが基本やで」みたいな形で基礎の部分を強化しています。アメフトを本格的に始める関東・関西の高校生や地方の大学生に向けてクリニックを開催していることが現状ですね。

    今後はその基礎的なスキルのベースを上げた上で、木下がポジションに特化したクリニックをする流れが作れればいいかなと思っています。もっと下の小学生や中学生ぐらいになると、その年代からフットボールをとにかくやってほしいというよりかは、アメフトが一つの選択肢になってほしいという思いで活動したいなと思っています。

    野球をやってもいいし、サッカーもやってもいい。その中にアメフトが入ってくれれば嬉しい。そういった文化が出来ないかなと思っています。なかなか今のアメリカのように学生時代に複数の部活動に入ることは難しいと思っていますが、子供の頃は野球だけずっとやるとかサッカーだけずっとやるみたいなことよりも、アメフトもやっていろんな体の使い方や動かし方を学んで欲しいなと。その経験がどのスポーツをやっても活きるんじゃないかなと思うので、そういうことを伝えていけたらなと思っています。

    木下さん:飾磨が言っている「ヘッズアップフットボール」は安全面やアメフトをする上でのベースの部分なので、僕がそのベースの後に教えていくっていうところを担っています。できれば高いレベルかつ自分が経験したことを伝えていきたいですね。

    出来る出来ないは人によってもあるので、選手それぞれの能力を見たり、学年別もそうですし、レベルを見て教えています。将来的には本当に能力が高く海外を目指せる人間を集めて、大きな合宿をやりたいなという風に考えています。

    ーー今後のJADが目指す姿を教えて下さい!

    飾磨さん:目指す風景みたいな話になるかもしれないですけど、「公園でアメフトボールを使って子供達が遊んでいる姿をあちこちで見れること」を僕は一番の目標というか目指したいと思っています。最近でこそあんまり公園で野球やっていたり、サッカーやっている子を見る機会は少ないかなと思いますが(ボール遊び禁止っていうのもあるかもしれないですけど)、やっぱり日本ではサッカーか野球って感じだと思うので、アメフトボールを持って公園で遊んでいる人たちがたくさんいれば僕は満足だなと思います。

    (写真:JAD様提供)

    木下さん:私もそうですね。ユースの部分は飾磨と一緒です。ほんまは誰もがアメフトのルールを説明できるぐらいであれば、アメフト自体に触れたり、プレーする環境が整っていることだと思うので、そこは本当に目指したいですね。

    もう一つは「打倒アメリカ」というところでユース世代と並行して、トップレベルというか上のレベルの育成も考えていかないとあかんなと思っています。例えば僕は引退したのでクリニック活動であったりとかコーチングっていうところで上のレベルを強化できたり、育成できるような形をとっていきたいなと思っています。

    ■ 高いアメリカの壁、日本アメフトの立ち位置とは


    ーー先日、米国アイビーリーグ選抜との一戦「ドリームボウル」で日本代表は勝利しました。この一勝について、率直にお二人はどんなことを感じましたか?

    飾磨さん:どんなカテゴリーでも日本代表がアメリカに勝利したということは、非常に大きな出来事でした。例えば、これが僅差でも負けていたらやっぱり日本はアメリカに勝てないって感じだと思うんですけど、ここで勝ったことによって、次はもうちょっと上のレベルのアメリカの選手たちが何らかの形で集められたりとか、日本からもその条件を求めることができると思います。今後はもうちょっと上のレベルで戦えるのではないのかという話が絶対に出てくると思います。

    段々と上のカテゴリーに近づいていくのは非常に大事なことというか、良いきっかけになるかなと思うので、この勝利は日本にとって大きいのではないかと純粋に思いますね。

    木下さん:僕も飾磨とほとんど一緒ですね。僕は一応アメリカのトップレベルまでみたんですけど、本当に日本の選手が見たこともない高いレベルの選手がいることはわかっていることなので、突然そのトップと戦うっていうことは、今は不可能なことだと思っています。

    日本が今できるだけアメリカと戦える環境を作って、そこに勝っていくことが日本のアメフトのレベルを上げるために大切。海外の高いレベルと対決できる機会がある時は、全部勝っていくしかないんじゃないかなと思いますね。

    ーードリームボウルを踏まえて、国際的に見た現在の日本代表の立ち位置に関してはどう思われますか。

    木下さん:それに関しては答えがないと思いますけど、今はアメリカの大学でプレイしている学生がXリーグや代表に参加していたり、もっと海外に出てそれを経験している子たちが集まれば集まるほど、よりアメリカのレベルには近づくと思います、

    実際今の日本でアメリカの選手と一緒にプレーできる経験は限られてますし、Xリーグでも外国人はオフェンス/ディフェンスでそれぞれ2人ずつしか出場できません。アメリカ人がいない時代に比べると、日本のレベルはすごく上がってきてるとは思うんですけど、まだまだ制限があります。

    ただ、みんなが勘違いしたらあかんのは、日本がアメリカに近づく過程の中で、アメリカはそれ以上にもっとレベルが上がっていること。日本人のレベルが上がったからって、アメリカが待ってくれてるようなことは絶対に無い。アメリカでのアメフトは常に最先端を取り入れて、最先端のことを続けているスポーツだと思います。だから何十年も前に比べたら日本のアメフトもレベルはすごい上がっていると思いますけど、コンスタントに国際試合でアメリカ人と毎回11対11で戦う高いレベルを経験しない限り、そこの差は縮まっていかないところなんだなと思う。

    今の日本人の中で言うと、NFLヨーロッパがあれば活躍できてた選手は何人かいるかもしれないですけど、その中で戦っていけるかどうかでいうと、どうかなという感じです。富士通RBサマジー・グラントの活躍ぶりってあるじゃないですか。あれぐらいのレベルで日本人が戦えていないと難しいと思っています。

    ■ 当事者として感じる日本アメフト界の課題


    ーー今後アメリカと戦い続ける前提において、現在捉えている日本アメフト界の課題を教えて下さい

    飾磨さん:課題って結構難しくてたくさんあると思うんですが、僕が感じるところで行くと言い方が難しいですが「基礎」の部分ですね。競技人口で言うと圧倒的に大学生が多くて、高校生と社会人が同じくらい。小学生や中学生はもっと少ない。競技人口のピラミッドからするとすごい歪な形になっています。

    成功しているというか、普及しているスポーツは土台となる子供達の競技人口が圧倒的に多くて、だんだんピラミッド型になっていっていると思うんですが、アメフトは人口構成比の部分が課題だと思っています。

    技術的な部分もそうなんじゃないかと思っていて、さっきも言った通り基礎がないままどんどん経験を積んでいるような状況です。楽しんでやる分にはいいと思うんですけど、ほんまに上を目指そうと思った時に基礎がないままプレーし続けると、怪我が増えるし上手くなりません。共通して基礎の部分がもっと充実したら技術レベルが上がるのになと、個人的に思っています。

    木下さん:僕がそこに対して動けているかというとそうじゃない話になってしまうんですけど、今は色んな協会がバラバラに動きすぎていると思うんです。やっぱり一つにまとまって動くべきで、本当にアメフトを広げたい・普及させたいって思ってる人なんてすごく多いと思うんですよね。

    そういう人たちが一つになれるような環境であったり形っていうのはすごく重要なことだと思っています。今でいうとXリーグと関西学生・関東学生があって、形式上は協会って形にはなってますけど、みんながそれぞれ全然バラバラに動いてしまっていることがすごい課題だなと思っています。

    それをJADを立ち上げた時にすごく感じて(笑)。だからJAD自体はどこにも属さないというか、ゼロベースですべての話ができることを重点的に考えている部分ではあるんですよね。だからアメフトの情報ならすべてJADに集約できたらすごくいい形になるんじゃないかなと勝手に思っていました。

    ーーアメフトを盛り上げたい思いを持つ人や、JADの取り組みに共感する人はこんごどんなアクションをとっていけばいいでしょうか

    飾磨さん:今とにかくやっているのが、競技人口を増やすために、子どもたちがアメフトをできる環境を増やす活動を個人的には1番注力しています。JADとしては若年層の競技人口を増やす、競技レベルを上げるところにも取り組んでいます。木下が目指しているような目標と一緒なんですが、僕がやっている若年層の競技人口を増やすという点でいえば、子どもたちに教えてくれる指導者がやっぱり必要です。

    子どもと一緒に楽しんでアメフトをやるというのが1番の普及活動なので、難しいアメフトの知識とかってよりも子どもと一緒にアメフトを楽しんでくれる人の輪がどんどん広がっていけばいいなと1番思っています。

    徐々にチームを増やしていますが、僕自身関西勤務で毎週現地に行けるわけではないです。各地域に僕たちと同じ思いを持ってアメフトの普及活動をしてくれる人や、子供たちと一緒にアメフトをしてくれる人を探しながら広めている形なので、そういった思いを持つ方がいればよりアメフトの輪が広がるスピードが早くなると思います。

    いろいろな人と話していると地方でチームを作るのって大変じゃないですかってよく言われますが、全然そんなことはないです。僕も最初は知識のないままフラッグフットボールをしていましたけど、まずはチームを名乗るだけOKです(笑)。当然保護者の方たちが理解してくれることが前提ですが、子供たちがアメフトなりフラッグフットボールを楽しんでくれる場所づくりができれば何も問題ありません。

    何かアメフトのためにしたいけど何をしたらいいか分からない人は、特に子供たちと一緒にフットボールができる環境づくりを手伝ってほしいと思います。

    木下さん:飾磨の話の通りです。時間がない方であれば活動を手伝うことは難しいと思うので寄付いただけると幸いです。寄付金を使って子供たちの現場を広げていくことに使えます。そういった支援は本当にありがたいです。 あとは、アメフトを盛り上げたいと思っているけど何をしたらいいか分からない方もすごく多い。例えばアメフト関係者がお酒の場で「アメフトがもっと人気になってほしいよな」っていう会話ってよくあると思います。だからそういった思いを持った方々がアメフトに対して支援や、アクションの1歩目を踏み出せるような後押しをすることがJADの役割になればいいなと僕は思っています。 

    「何をしたらいいかわからんけど、JADに1回連絡してみようかな」と思ってもらって、「〇〇で、フラッグのチームの練習をしているので教えに来てもらえないですか」とか。そこから新しくチームの立ち上げについて話せたり、地方で開催するイベントがあればお手伝いをいただいたりと、とにかく一歩目を踏み出してもらえたらJADとしてはありがたいです。

    よくJADって誰が運営しているのかとよく聞かれるんですが、僕が答えるのは誰がやってるとかが重要じゃなくて、みんながアメフトに恩返ししたいとか、なにかやりたいなって思ってること提供できる場にしたいと思っています。誰がやっているかはそれほど重要なことではないかなと自分は思ってますね。

    ーー最後に、今現役でアメフトをプレーしている選手やスタッフに伝えたいメッセージをお願いします!

    飾磨さん:今は1部リーグに所属してないと日本一は目指せないとか、そういったことはあるにせよ、当然2部だったら1部昇格とか、チームの目標があったりすると思います。個人としての目標も、当然あると思うんですよね。

    それこそ夢として「NFLに行きたい」とか、夢や目標を諦めずにどんどん目指してほしいと思います。やっぱり人間って高い目標を掲げるとどこかで自然と諦めちゃうと思います。素直に諦めずに目指し続けるって限られた人にしか出来ていない。例えば大谷翔平みたいになりたいって言うけど、「あれは特別だから」で済ますことはありがちなこと。そうなってしまうと成長って止まると思うので、素直にやりたいこととか夢をとことん追い続けてほしいなと思いますね」。

    木下さん:大学生活は4年間しかなくて、その4年の中でチームメイトに出会ったり、試合を見に来てくれる仲間であったり、そういったものがアメフトで繋がっていることは忘れないでほしいと思っています。1部で日本一目指すことも重要ですが、2部だろうが3部だろうが関係なく本当に純粋にアメフトを好きになって、そこに対して全力で打ち込んでほしいと思いますね。

    みんな就職とか先のことを考えることもあると思うんですけど、まずは自分のやりたいと思ったことに対して全力でぶつかって欲しい。ぶつかることができる人間は、またその先の壁が出てきた時に、それを乗り越えようとする能力が付くはずです。今、目の前に置かれてる自分の目標やチームの目標に向かって全力で戦ってほしいと思います。

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    いかがでしたでしょうか。今回はJADの取り組みを飾磨さん、木下さんに語っていただきました!アメフトに何か恩返しをしたい、なにか一歩を踏み出したいと思っている方はぜひJADのHPからご連絡下さい。

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