• インタビュー
  • 2023.12.26

「勝利」にがむしゃらに、人としても選手としても成長を|専修大学アメリカンフットボール部

2023年12月16日に関東2部リーグの成蹊大学との入替戦に臨んだ専修大学グリーンマシン。

惜しくも入れ替え戦では敗れる結果となりましたが、1次リーグでは昨季1位の横浜国立大学、2次リーグでは今季1位の桜美林大学に勝利しチームとしての強さを見せました。

今回はそんなチームの幹部陣に今年のチームの取り組みと、BIG8のインターセプト部門1位の成績を残した注目選手へ話を聞きました!

▼目次

    記事・写真:三原 元

    ■ 下級生を役職につかせ、主体性を伸ばす


    「去年の主将、平久さんは言葉の1つ1つに重みがあって、聞いているだけで頑張ろうという気持ちにさせてくれる人でした。自分はそういう力はないので、この1年は平久さんと別の主将像になろうと取り組んできました。」

    そう語るのは主将の平賀選手。昨年の平久主将とは違う主将になると話す彼に、どんな主将像を目指したのかを聞いた。

    「話す時には相手が行動するための理由を必ず付けるようにしました。自分の言葉を聞いた相手に協力を促して、同時に主将である自分自身も率先して動いていく、そんな主将になろうと今年一年活動してきました。」

    相手の行動を促し、あくまでもメンバーと同じ立ち位置を意識していると話す彼には、これまでのチームで感じていたある事があった。

    チームメンバーから「チーム随一のアメフト好き」と言われる4年RB平賀主将

    「去年は幹部が4年生だけ。それによって4年生が絶対という空気や、下級生の声が中々届いていないと感じていました。今年は幹部に3年生を加えたり、各リーダーを学年関係なく選ぶように意識をしてきました。その結果、下級生の声も入るようになり、チームの風通しも良くなってプラスの効果が出たなと実感しています。」

    チームの幹部はその年の結果を左右する重要な役職だ。まだ経験のない下級生を役職に就かせる事について役不足に思われそうだが、これについてはある4年生の選手がこう評価していた。

    「そんな事はありません。幹部やリーダーになった後輩には、自分がチームを引っ張って行くって気持ちが少なからず出てきます。リーダーになる事でプレーに自信が出た選手や、試合に出て結果を出るようになった選手もいます。そして彼らの変化が周りにもいい影響を与えていると感じますね。」

    平賀主将によって学年関係無く役職につくことで、チームに良い効果が出たグリーンマシンだが、役職以外にも今年は1年生が試合に出ることによって思わぬ効果があったそうだ。

    「今年春のオープン戦で1年生が出る場面がありました。理由は主力選手の怪我であったり、得点差がついた展開であったりと様々ですが、彼らには結果的に早い段階で試合に出ることの楽しさを体感させる事が出来たと思っています。あとは同じ1年生同士で『あいつが試合に出たんだから自分だって』という競争心が出てきた面もプラスに働いたとも思えますね。」

    プロ野球の故野村克也監督が生前「地位が人をつくり、環境が人を育てる」と言ったそうだが、今年のグリーンマシンはその言葉のごとく下級生が役職につき、1年生が早い段階で試合に出ることでプラスの変化をもたらしていた。

    しかし入部してくる1年生は選手だけではない。スタッフについてもどんな取り組みをしているか、3年生ながらも今年主務を任されている安藤 帆夏さんに聞いた。

    ■ スタッフがチームを動かす


    「スタッフなんて裏方だと思っていました。チームの中で必要なことだけやって終わり、選手とあまり関わらない存在なんだって。」

    主務の3年安藤 帆夏さん

    安藤さんは高校では軽音やダンスに取り組み、人前に出る側の人間だった。当時の彼女がスタッフになろうと入部した理由は『裏方を経験したいから』だった。そんな安藤さんは現在3年生となり、主務に就いている。彼女に1年生スタッフへの関わり方を聞いた。

    「入部してくれたからには、やりがいを持ってくれたらと思います。その為に、1年生で覚える業務が出来たらそこで終わりではありません。出来たらじゃあ次これやってみよう、その次はあれもやってみない?って、学年でやることに制限をつけないで、どんどんステップアップしてもらうように意識しています。」

    彼女の話す方針のきっかけは、以前下級生のスタッフに業務を教えた際に「これも自分たちに教えて貰えるんだ」と前向きなリアクションがあった経験を踏まえているそうだ。それからは「下級生にも業務を制限なく教えて任せられるようにして、自分たちは他の業務やチームの為にできる事を探しています」と話していた。

    上級生ができる業務は定型化しているので後輩に教えることができる。後輩に業務を経験させて任せる事が出来、それによって手が空いた上級生スタッフは他の業務やチームで求められている新しいことを探す余裕が生まれたそうだ。

    その他、安藤さんにスタッフとして意識している事を聞いた。

    「練習中に選手がなにかを復唱する時、いつも聞いている私たちだからこそ、その時の声の大きさでやる気がわかります。そんな時に声をかけて「今日声が小さいんじゃない?」って活気つける事ができる。そうやって私たちが選手の雰囲気を作っていくんだって意識しています。」

    意識している事は試合中にもあると話す。

    「試合中、私たちはサイドラインで選手に水や氷、塩分と声を掛けまくって動きまくっています。それで断られることはもちろんありますが、それでいいんです。選手の中には自分から声を掛けてこない人がいて、声を掛けて実は必要だった、なんて事は良くありますから。だからこそ選手たちのアクションを待っていないでスタッフが自分から動く事を意識しています。」

    最後に安藤さんに今考えるスタッフという存在について聞いた。

    「今は私たちスタッフがいて1つのチームだと実感しています。選手達のパフォーマンスが最大限出るように動き、選手たちのアクションを待たないで自分たちから動いていく。だから私たちスタッフは裏方なんかじゃありません。私たちもチームを作る一員であると自覚しています」

    ■ チームを強くするため恐れず言う


    副将兼ディフェンスリーダーの3年LB嶋影 晟仁朗選手

    3年副将の嶋影選手は浦和学院高校出身のアメフト経験者。彼はBIG8における個人記録の内、インターセプトを3回決め部門1位になった実力者だ。

    平賀主将曰く決めにくい事やチームに言いづらい事も自分から率先して発言する、昨年主将の平久さん気質な人間と言われる彼に、そこまで発言出来る理由について聞いた。

    「自分が言うことで嫌われるかもしれない、でもそれは仕方が無い事だと思っています。自分は正しいことをやっているという自覚というか自信があるので、その自信をしっかりもって発信していれば、『言った相手に嫌われるかも』なんて恐れないですし、何よりそれじゃチームは強くならないと考えています。」

    人一倍チームを勝たせたいという思いが強いと話す彼に、今年のチームに掛ける思いを聞いた。

    「自分には特別なテクニックがあるわけではありません。だからその分泥臭いフットボールをやります。誰でも出来るようなことを誰よりもやるし、最後までボールを追いかけるし、最後まで相手ボールを狙います。とにかくボールが浮いている間は自分の足を止めない、そういうプレーをしていきますし、その自分の背中でチームを引っ張っていければと思っています。今年はオフェンスに下級生が多いので、例年に比べて得点を量産しづらい状況です。だからこそ自分たちディフェンスでターンオーバーしたり、パントリターンではオフェンスが攻撃しやすい位置からできるようにさせる。とにかくディフェンスで勝つ、ディフェンスでこのチームを引っ張っていきます。」

    また、嶋影副将はディフェンスチームの特徴をこう話していた。

    「このチームでは1年生の時からパシュートをこれでもかってくらいに徹底してきました。キャリアの周りに専修グリーンのジャージが全員集まるくらい、全員で止めるようなそんなディフェンスになれと言われています。」

    彼が話すパシュートの重要さについて、もう1人のディフェンス副将である4年藤田雅貴選手から詳しく聞いた。

    ■ 人としての成長の先に選手の成長がある


    「泥臭さとパシュートだけは大事にしています。特にパシュートでは相手に抜かれた時、自分が「もうダメだ」と思わない事が一番大事です。」

    4年副将兼ディフェンスリーダーのDB藤田雅貴選手

    藤田副将は日本体育大学荏原高校出身のアメフト経験者。彼にパシュートについて話してもらった。

    「相手オフェンスにロングゲインされた時、自分が逆のオープンフィールドにいたら『もう絶対に届かないな』って思ってしまう。だけどそこで『いや、自分が絶対に止めるんだ』って決めて動けば、どんなにキツくても止められます。実際今シーズンの試合で2回ほどその場面になって、でも諦めないで走りきり止めることができています。」

    今でこそ彼はそれほどの姿勢を持っているが、以前は違ったそうだ。

    「正直な話、これまでの自分はコーチからパシュートを言われても「関係ないじゃん」って思っていました。というのも、強いチームの中にはパシュートをしないディフェンス選手がいたので、彼らだけを見て「なんでそんなにパシュートが重要なのか」って思っているだけでした。けど、視野が広がって色々なチームを見るようになると、パシュートするチームはディフェンスの集まりが凄く良いことや、パシュートをするチームはディフェンスが強いところばかりだと。それくらいパシュートは大事なんだと気がついて、パシュートに対する考えも意識もガラッと変わりましたね。」

    パシュートの大事さに自分で気がつくことができた「視野の広さ」は何かきっかけだったのだろうか。それに関して藤田副将はこんな事を話してくれた。

    「選手として伸びる前に、人として成長したからだと思っています。人として成長したので周りを見る事ができるようになり、パシュートの大事さに気がつくことができました。それ以外でも、練習やトレーニングへの意識も変わりましたね。これまでの自分は「今日は気分が乗らない」と思ってしまってたのが『ここでやれば絶対に良い結果が待ってる』に変化して、モチベーションを高く保てるようになったと感じています。」

    どんなに優れたコーチや環境にいても、選手の側にそれらを吸収して活用する器が無くては宝の持ち腐れだ。その意味でも藤田副将が話す、人としての成長の後に選手として伸びた経験の話は大事な気づきかもしれない。

    ■ 未来のグリーンマシーンへ


    最後に4年幹部2人にラストシーズンに掛ける思いを聞いた。

    藤田副将「これまで自分はメンタルをやられて結果が思うように出ない事や、練習に本気で取り組むことができない時期がありました。その時の自分を振り返ると後悔がありますが、そんな時でもまわりの人たちに支えてもらって、ここまで来れたと思っています。だから1番は後悔しないようにやること。そのためにまずは今日、そして明日と、目の前の練習1つ1つに一生懸命取り組みます。泥臭く、諦めることなく、最後まで、どんな結果になろうと戦い抜きます。」

    平賀主将「やっぱり来年に繋げられる年にしたいと思っています。来年最高学年になる今の3年生は、人数が少なかった自分たち4年生をこれまで支えてくれました。そんな彼ら後輩たちに2部の舞台は相応しくないですし、少しでも良い舞台を彼らに渡して卒業したいって思いがあります。なので1部という舞台を必ず残して、来年少しでも良い舞台で戦ってもらいたいです。」

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