部員数はチームの命といっても過言ではない。人数が少なければリャンメン当たり前、さらに厳しくなればチームの存続すら危ぶまれる。だからどのチームも新入生勧誘には力を入れるはずだ。
そんな中で注目したのが、2019年にTOP8へ昇格した東京大学ウォリアーズ。
彼らはスポーツ推薦が無い国立大のため、毎年新歓だけで新入部員を獲得しなければならない。しかし彼らは毎年選手だけでも30人前後の新入部員を獲得し、スタッフ含めた総部員数は現在150人を超える大所帯。他チームがコロナ禍で部員が減る中、この数字は驚異的に見える。
今回はそんなウォリアーズにお邪魔し、彼らに新歓を成功させているポイントを聞いて来た。
▼目次
記事・写真:三原 元
志田「東大は毎年3月10日が合格発表日で、この日が最初のアプローチですね。」
話すのはウォリアーズ4年のSA(スチューデントアシスタント)志田遊梧(しだ ゆうご)さん。SAとはAS(アナライジングスタッフ)と学生コーチの2つの役割を担うスタッフの役職だ。
志田「その日は自分の出身校に行って、先生に『東大受かった人いませんか。』って聞きにいきます。受験生は合格したら高校の先生に報告しに行くのが多いので、その時に『東大でこんなスポーツ大会あるけど、来ない?』って案内をするんです。」
SAの志田さん
母校訪問は、人によっては関西など首都圏以外の場合もある。それでも部員勧誘のために地元に戻って新歓をするそうだ。
志田「3月は東大にアメフト部がある事を知って貰うフェーズです。東大は国立大でアメフト経験者が本当に少ないし、そもそもアメフトやろうと思って入学する学生がなかなか居ないんです。」
経験者が少なく、アメフト目的で入学する学生が殆ど居ない環境では、部員確保は新歓しか方法が無い。なので各々が母校に赴く以外にも、3月は都内私立高校で東大に合格した学生を集め、アメフト以外のスポーツ大会を企画しているそうだ。
彼らがこの時期に行うイベントがスポーツ大会というのには理由があった。
これまで大学入試のために毎日机に向かっていた受験生には、合格して受験が終わった解放感と、これまで勉強ばかりで鈍った体を動かしたいというニーズがある為だそうだ。学生からすればそれ以外にも、イベントに参加すれば入学前に友達がつくれるというメリットがあるに違いない。
それにしても東大ウォリアーズの新歓に掛ける熱意は並大抵のものではないが、これは同チームHCの森 清之(もり きよゆき)氏の影響があるそうだ。
話してくれたのは2023年度リクルート長の4年DB筏井 崇介(いかだい しゅうすけ)選手。
筏井「森HCからいつも言われるのは、『練習やトレーニングは1年を通して出来るが、新歓は3月から5月までの限られた期間だけだぞ』って言葉なんです。新入部員はこの時期を逃したら後から取り戻せるものではない、だから部員全員の意識をシッカリ変えてやっていこうよと。」
新歓リーダーの筏井選手
森HCの言葉を受けて、彼らは3月から5月の間はとにかく新歓を優先して行動する。
しかし新歓を優先すれば、しわ寄せは当然練習にいってしまう。東大ウォリアーズでは先ほどのスポーツ大会以外にも、選手向けやスタッフ向けのイベントなど、多くの企画があるため、しわ寄せは尚の事だ。
筏井「結構イベントの数が多いんで忙しくなります。けど新歓を優先するからと言って、日ごろの練習を疎かには出来ません。なので僕らはイベントの合間にトレーニングしたり、授業のない時間にグラウンドを使ったりして、各自が練習に出なかった分を補うようにしています。」
新歓を優先する彼らには、森HCの言葉の他に、ある危機感があった。
志田「3月には新歓で予定している半分が完了します。結構早いペースかも知れませんが、のんびりやっていると他の部活で決められちゃう。そういう危機感があるんです。」
その危機感には、新入生のほとんどがアメフト未経験という事も関係していた。
筏井「新入生で良くあるのが、高校までやってた部活になんとなく入っちゃうってパターンなんです。他の部活やサークルも新歓をやっているので、その中で高校でやってた部活の人に声をかけられると、そのままそっちに入部しちゃう事が多い。だから僕らはなるべく早く行動する。基本的に短期決戦です。」
短期決戦と話す彼らの新歓は、大まかに3つのフェーズがあるそうだ。
①まずは部活の雰囲気を知ってもらう
②次にアメフトに興味をもってもらう
③最後に入部してもらう
志田「①はスポーツイベント等を通して、まずはチームに良いイメージをもって貰うようにします。②では新歓試合など、実際にアメフトをしているところを見てもらって、 アメフトに対して興味を持って貰う。」
筏井「イベントでは楽しさをいかに理解して貰うかを大事にしています。そもそもアメフトを知らない人が多いので。やっぱり口で伝えたり、実際に練習に来て貰ったりすることで、アメフトの魅力だけでなく東大ウォリアーズとしての魅力を伝えられると思うんです。その為にイベントは、 全体向けのものからスタッフ向け、女子向けや選手向けなど色々やって、それぞれでアメフトの楽しさを根気強く伝えていってます。」
彼らはこれまで対面でのイベントの他にも、zoomやYoutubeライブもやったそうだが、対面イベントと比較して効果はあまり感じられなかったそうだ。
そのため現在はイベントの殆どを対面にし、zoomなどは地方の合格者が上京前の3月中に、各種相談会などで利用する程度とのことだ。その他、対面イベントでは東大ならではのものもあった。
志田「東大では新入生の中に『就活頑張りたいんで部活はいいです』とか『司法試験受けたいんで遠慮します』みたいな新入生が結構いるんです。でも、これまで部のOB/OGの方々は、部活を全力でやりながら司法試験に合格したり、大手企業の内定をとっていますし、更に学術関係で活躍されている人もいます。なので、そういった方々をゲストに招いて話をして貰い、『部活やりながら出来る、むしろ部活やってたから良かった』という話を新入生に伝えて頂く会というのをやっています。」
各種イベントで新入生に寄り添い、様々な対応をしているウォリアーズ。彼らにはもう1つ新入生が入部しやすい理由があった。
筏井「新入生には『とりあえず、1回入部してみよう』ってよく言ってます。というのも、新入生からしたらアメフト部って『一度入部したらやめづらい』とか『体育会系で厳しそう』ってイメージがあるものなんです。だけど実際に入部して、体験しないとわからないものってあるじゃないですか。
だから、とりあえず1回入部してみて、実際に雰囲気を体感して貰うようにしてます。それで本当に合わないとか、他にやりたいことが出来たら、その時は全然そっちの方に行って構わないよと。むしろ、僕たちはそんなあなたを後押ししますよってスタンスです。」
実際、新入生の中には入部後『他の部活をやりたい』と言って辞めていくケースがあるそうだ。そんな時に彼らは強く引き止める事はしないという。一見すると冷たい対応のように見えてしまうが、この方針にも理由があった。
筏井「僕らからすれば、正直言えば残ってほしいです。けど、やっぱ自分の大学生活は自分で決める事だから。本当にやりたいことがあるなら、 それをやって欲しいと思います。」
あくまでも新入生が充実し、後悔のない大学生活を送れる事を優先させるという彼らの方針には、ウォリアーズというチームへの絶対の信頼と自信があった。
筏井「新入生には、ぶっちゃけ全部のサークルや部活を見てきて欲しいくらいです。全部見て、それでウォリアーズがどれだけ優れているかに気づいて欲しい。そうすれば、僕らがどれだけ良い環境でやってるか、どれだけ良いチームなのか、その魅力をより理解して貰えると思っています。ちゃんと比較してもらえれば、僕たちを選んで貰える自信がありますね。」
彼らが自分をもって話す東大ウォリアーズの環境とはどんなものなのか、詳しく聞いてみた。
筏井「指導の面では、森HCをはじめとして、各ポジションコーチはすごい有名な方々に指導いただいています。他にも色々な企業さんに協賛をいただいて、トレーニング施設も充実しています。」
志田「後は何よりも、自分たちは皆が未経験っていう、最初の状態が皆で同じ横一線。そこからの状態からスタート出来るんです。そこから試合に出て、日本一を目指せるTOP8にいます。部員・スタッフ全員が東大生で、合わせて150人ほどいる団体となると、東大の中でも自分たちが最大規模です。その皆が一緒になって日本一を目指せる環境なんです。」
自分たちのチームに自信がある彼らだが、時には他の部活やサークルと新入生の奪い合いにもなりかねない。
筏井「東大で僕ら以外に大規模な団体だと、サッカー部や、野球部などがありますが、その中で特に競合するのはラクロス部なんです。彼らは僕らと同じく、大学から新しく始めるスポーツなので初心者スタート、加えて向こうも日本一を目指せる環境と、状況が似ています。」
新歓で競合する部活がある場合、多くは相手をいかに出し抜くか、新入生へは相手を貶める事を言ってアピールしてしまいがちだが、彼らは違うそうだ。
志田「ラクロス部とは新歓で協定を結んでいます。同じ境遇同士、お互いフェアにやろうと約束しているんです。具体的には、新歓でお互い悪口で相手を下げない、新入生に伝えるのは自分たちの魅力にする、それと新歓イベントの日程を共有して、被らせないようにするといった事を決めています。」
彼らが競合する部活と協定を結び、フェアに新歓を行っているのは、チームの行動規範も関係している。
志田「僕らのチーム行動規範は『挑戦・正義・謙虚』です。これを新歓での自分たちの行動で実践しています。それに、相手を出し抜いたり、貶めるといったマイナスのメッセージに新入生が響いて入ってくれたとして、その人と一緒にアメフトをやる事って、果たしてチームにとって本当に良い事なんでしょうか?それよりも自分たちの魅力を伝えて、そのプラスのメッセージに響いて入ってくれる方がいいよねというのがチーム全体の考えです。」
以上が今回話を聞いた内容となる。彼らは現在TOP8で活躍し、昨年は中央大学ラクーンズを撃破して甲子園ボウルへと繋がるTOP8上位リーグに進んだのも記憶に新しい。
その強さの理由には森HCをはじめとした強力なコーチ陣による指導は勿論として、それ以外にも今回話を聞いたような、部員一人一人が日ごろからどんな考えで行動し、新歓で新入生にどんなメッセージを出すのかという部分も関係しているのかも知れない。