• インタビュー
  • 2023.02.17

夢見たTOP8で戦いきった1年、「快活のオレンジ」は必ず戻ってくる|横浜国立大学アメフト部

チーム創部初となるTOP8の舞台で戦った横浜国立大学マスティフス。

これまでBIG8では常に上位に位置し、常勝が当たり前だった彼らだが、TOP8では白星をあげられずに来季BIG8へ降格となった。

今回はそんなマスティフスにシーズンを振り返って話を聞いた。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    ■ 快活のオレンジ


    「チームが一つの目標に向かって凄い頑張ってる姿に惹かれました。だって、大学生になっても思いっきり熱中する経験が出来るんです。

    話すのは主将の橡木 勇希(とちぎ ゆうき)選手。高校ではサッカーに励み、最後の試合で悔いを残して終わった。横国に進学後も、もう一度挑戦出来るものを探していた。そして新歓で出会ったアメフト部。チームの雰囲気に惹かれて入部を決意した。

    主将 橡木 勇希選手

    大学入学時70キロだった体重は、アメフト部へ入部しトレーニングを重ね、100キロを超えた。努力で作った体で最後のシーズンを主将として引っ張ったが、TOP8はこれまで戦ったBIG8とは別世界だった。

    「オフェンスで1ヤード進むこと、ディフェンスで1ヤード止める事、それらがどれだけ難しいかを凄く肌で感じました。」

    前に進めず、相手を思うように止められない試合展開。結果が出ずに負けが続く状況が続くとチームの士気も下がっていく。

    「プレーが上手くいかないと雰囲気が下がってしまう、その下がったままプレーして、次も上手くいかないと更に下がる。どんどん悪循環に陥いるんです。そういう厳しい時は観客席を見るようにしてました。」

    主将が見上げる観客席には、彼らを応援するためにOBやOG、父母などの関係者が常に駆け付けてくれていた。

    「田島HCがよく『快活のオレンジ』って言葉を仰っていて、これは『オレンジの色をイメージして、その色通りに元気良く、活力あるフットボールをしよう』って意味なんです。試合で辛いときに観客席を見ると、その快活のオレンジに染まっていて、見る度に凄い勇気を貰いました。」

    試合によっては朝早いものや、悪天候の中での試合もあったが、観客席はいつもオレンジに染まっていた。

    「見に来て下さったOB・OGの中には、TOP8を目指して果たせなかった方々が沢山いました。それだけ期待も注目もして頂いた中で勝てない、それでも次の試合にもその次の試合にも来ていただいて、凄く声援を頂きました。いつも見に来て頂いて、どんな状況でも応援してくれる。そういう人達の存在が本当に有難かったです。」

    ■ TOP8の壁


    「TOP8は隙がありませんでした。」

    話すのはQB壽藤 泰生(じゅとう たいせい)選手。横国に入学し、アメフト部の雰囲気の良さ、居心地の良さに惹かれて入部。初心者からアメフトを始め、QBとして1年生から試合に出て経験を積んできた。

    「強さは勿論、スピードもBIG8と比較にならないです。正直言って本当に同じスポーツをしてるのか?ってくらいでした。」

    RBにボールが渡ればそこに相手LBがいる。パスを投げようとすれば、その動作で相手DBが前に入って来る。そのスピードはBIG8とは別世界だった。

    「自分たちに足りなかったのは『詰め切る』事だと思います。アサインを『こんなものでいいか』って状態だと絶対に通用しない。本当にチーム全員の意志疎通が完全に出来た状態でないと通用しないと痛感しました。」

    チーム全員の意志疎通の為に必要なものは何か、それはチーム全体の熱量だと話す。

    「4年生でやる気になるのは当たり前です。その同じ熱量を、いかに下級生に持たせるか。その為には、まずは4年生がもっと勝ちへの気持ちを出し、チーム全体に波及させていく。自分たちがアメフトをやる意識や意味を下級生まで浸透させる事だと思います。」

    「TOP8は狡猾さがありました。」

    話すのはAS(アナライジングスタッフ)寺田智之(てらだ ともゆき)氏。高校までバレーボールを選手としてプレー。横国へ入学し、何か別の角度からスポーツに関わりたいとASを志望した。

    AS 寺田智之氏

    「試合中に、このレシーバーに絶対パス来ない、ここ絶対ボール取れると思ったら、彼らは本当にそこを攻める。逆にここを狙えばパスが出ると気づけば、ずっとそこを狙い続ける。そういう狡猾さがTOP8にありました。」

    更にTOP8は試合展開の仕方も違った。

    「BIG8では相手チームがスカウティング通りにやってくれることが多いんです。自分たちが作ってきたものをしっかり出す、そういう目線のチームが多いので。けれどTOP8はプレイブックに依存しないで、それを軸に相対的に変化するんです。

    だからTOP8ではスカウティングを軸にして、相手選手がどんな目線で見て、どうアジャスト(臨機応変な動き)をするのか。ASがその特徴まで見つける事が求められました。」

    「TOP8はテクニックが1段違いました。」

    話すのは副将のDL古市 樹生(ふるいち みきお)選手。高校までは野球部。横国では道具を使わず体一つで戦うアメフトにカッコよさを感じ入部。DLとしてこれまで戦ったBIG8では相手OLに負けた気がしなかった。

    副将 古市 樹生選手

    「TOP8では、自分より力が無さそうな見た目の相手でも競り負ける事がありました。体格じゃない部分、テクニックが一段違うと感じました。それ以外にもシステムの部分で、これまでBIG8では絶対的なサインであっても、TOP8では封じられる事が多くありました。」

    そんなTOP8での苦しい戦いを続ける中で思い出す言葉があった。

    「去年まで教えて頂いた石原コーチが退任される時に『TOP8という檜舞台を楽しめなかったら、意味がない』って言葉を残して下さったんです。TOP8の舞台で戦う事を目標にし、果たせなかった多くの先輩方がいる、だからいくら負けが続こうが、自分たちが『昇格しなきゃ良かった』なんて思ってはいけないと。それに、相手は早稲田や法政っていう、甲子園ボウルに出場したチームです。そんな憧れのチームと戦えるのが純粋に楽しかったです。」

    ■ 後輩へ託す再起


    「TOP8は大きな壁でした。戦って敵わないところは多かったですが、逆に通用する部分がシーズンを通して増えたのも事実です。」

     話すのは副将のTE中村 航(なかむら こう)選手。両親の仕事の関係で高校の一時期をアメリカで過ごし、本場のアメフトを体感。横国へ進学しアメフト部に入部した。

    副将 中村 航選手

    「例年だとスタメンの多くが4年生なんですが、今シーズンはコロナで部員が少なくなって、1年生がスタメンに出る状況がありました。その分、最初は上手く行かない事が多かったです。」

    これまで当たり前のようにチーム内で通じていた用語が1年生には分からない。通じない言葉があればテクニックやアサインの理解に影響する。本来なら時間をかけて自然と覚えるはずのものを短い期間で全て理解する必要があった。

    「当たり前としてる事が彼らには当たり前じゃない。それを教えながらのシーズンだったので、お互い最初は大変でした。けどこの1年で理解度がかなり上がって、中には1年で初心者ながらも目まぐるしく成長した選手もいるくらいなんです。」

    1年生の選手も多く試合に出た(写真中央は1年生宮本選手)

    下級生がシーズンを通して大きく成長できたのは、TOP8の試合という実践を経験出来た事以外にも理由があった。

    「横国って毎年経験者が1人2人程度、だから皆が初心者スタートなんです。でも僕らは毎年そんな状態から、これまで何度も1部BIG8の上位校として戦って来ました。それは基礎からコーチが熱心に教えて下さる環境と、何より自分たちが他のチームに負けない、泥臭い努力をしてきた結果です。このチームには、これまで先輩達が積み重ねてきた成長の土壌があるんです。」

    コーチ陣からも選手を評価する声があった。

    「横国の選手達は凄く素直で真面目ですね。テクニックを教えればすんなりと受け入れて練習をするし、試合や練習で出た反省も指摘すれば直ぐに実践する。今季は確かに負けの結果になりましたが、シーズンを通してTOP8のチーム相手に通用する部分が出てきたし、成長を感じました。」

    話すのは2022年からコーチに就任した斉川尚之(さいかわ なおゆき)氏。2018年に早稲田ビックベアーズ主将として甲子園ボウルに出場し、昨年にはカナダのプロフットボールリーグ(CFL)のグローバル・コンバインに選出され、CFLプレーヤーにあと一歩のところまで迫った。

    斉川コーチ

    斉川コーチからは母校早稲田と横国に様々な差を見ていた。

    「フィジカル面など数えればキリが無いですが、マインド面で言えば『NFLを見ているか』じゃないでしょうか。勿論見ることが目的ではないです。そうではなく、練習以外の時間をどれだけアメフトに費やせるかという事。アメフトをただの部活として取り組むのではなく、1人の選手として部活以外の時間で自分に何が出来るかを考え行動する。そういった熱量の部分に差を感じました。彼らは素直に実践して頭もいいので、そういったマインド面の差を埋める事が出来れば、どんどんいいチームになると思いますね。」

     更に今シーズンの試合を多くの1年生が経験した事もメリットだと話す。

    「1年生で、しかも未経験でTOP8の試合に出るなんて、他のチームでは聞いたことが無いです。そういう意味で今シーズン下級生が試合に出て経験値を積めたことは、これから凄いアドバンテージになると思います。」

    もう1人、来シーズンに期待出来ると話すのは川崎コーチ。2017年まで同チームのOLとして活躍し、卒業後も会社勤めの傍ら、土日のみならず平日も仕事後に駆け付け、チームを指導してきた。コーチとして、また1人のOBとしても、TOP8で戦った後輩達に様々な想いがよぎる。

    やっぱり自分の代で行けなかったTOP8に、自分がコーチとして導いた彼らが連れてってくれたのは、純粋に嬉しかったですね。今年はコロナで選手層が薄く、多くの1年生が試合に出たので、経験不足だったり、上手くいかない事が沢山あったと思います。けれどその厳しいシーズンを乗り越えて、4年生が後輩たちに経験させたTOP8での試合、その成果を後輩たちが来年度のBIG8で出せれば、『絶対TOP8に戻ってやるぞ』は決して夢ではない。そう信じています。」

    川崎コーチ

    最後に主将がこう話していた。

    「主将としてチームを背負うプレッシャーなど大変な事もありました。けどグラウンドに行って、後輩たちが一生懸命にやってる姿を見て、自分がもっとやんなきゃなって思いました。なんか、自分が教えたり引っ張ったりと与える側であると同時に、自分も後輩たちから色々貰ってましたね。後輩たちは今年経験した事を活かしてBIG8で戦って欲しい、けどBIG8で立ち止まらず是非TOP8を目指して欲しいと思います。」

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