• インタビュー
  • 2023.02.03

春に感じた大きな危機感、「チーム作り」の難しさ乗り越え、次世代へ|成蹊大学アメフト部

2022年に2部Aブロック1位となり、BIG8への昇格を賭けたチャレンジマッチ(入替戦)で上智大学と戦った成蹊大学ゼルコバース。

今回はそのチームを牽引した4年幹部陣3人と、彼らをサイドラインで支え続けた1人のトレーナ(以後TR)の4人に話を聞き、それぞれのシーズンを振り返って貰った。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    画像左から若林邑彰(わかばやし くにあき)選手(RB)、本多匠(ほんだ たくみ)選手(OL/主将)、西山壮流(にしやま たける)選手(QB)、榎本匠吾(えのもと しょうご)氏(TR)

    ■ シーズンを終えて


    まずは4人に2022年のシーズンを終えた感想や、一番記憶に残っている試合を聞いた。

    西山「入替戦が終わって一週間位は凄く悔しかったんですけど、今はやり切った感があります。」

    入替戦の結果は成蹊大7-上智大16。昇格を果たせなかった

    西山「(一番記憶に残っている試合は)拓殖戦です。その試合で負ければ引退、勝てば入替戦っていう状況だったんです。彼らは自分達が負けたリーグ5位の防衛大学に勝っていたので、正直勝てるイメージが無いままに当日の試合を迎えてました。けど、終わってみれば29-0で勝てて、本当に良かったです。」

    リーグ最終戦の拓殖大戦を29-0で勝利し上智大学との入替戦に進んだ

    若林「自分は最後の入替戦に怪我で出れなくて、それが凄く心残りな感じが半分、残り半分は4年間やり切ったっていうスッキリ感です」

    最後の入替戦にサイドラインで試合を見守る若林選手

    若林「(一番記憶に残っている試合は)自分も拓殖戦です。今シーズンは夏まで勝てなくて、秋も拓殖戦までの試合は全部がギリギリの内容で、納得して勝てた試合が無かったんです。そんな中で拓殖戦ではオフェンスが29点取って、ディフェンスも0点で抑えたので、今年やってきた事を全部出し切って勝てた試合でした。」

    副将2人が話した拓殖戦、TRの榎本氏はどうだったのだろうか。

    榎本「拓殖戦では『負けたら終わり」ってずっと思って、朝から緊張し過ぎてご飯が喉を通らなかったくらいでした(笑)。」

    スタッフの方が選手よりも緊張していたとは、それだけ彼らも一戦一戦が選手以上に真剣だという事なのだろう。また、彼らが拓殖戦を一番記憶に残った試合と話す中で、主将だけは別の試合を挙げていた。

    本多「(一番記憶に残っている試合は)春に戦った国士舘戦です。あの試合で本当にボコボコにされて、4年間アメフトやって初めて『なんで俺アメフトやってんだろう』って思うぐらいに打ちのめされました。」

    春の国士館戦で戦う主将の本多選手(中央奥79番)

    主将が国士舘戦を挙げたのには、ある理由があった。

    主将「さっき若林が『夏まで勝てなかった』と言ってたように、春の国士舘戦もそうだし、夏合宿中も他校と試合やってボロボロに負けたんです。それも、自分たちと同じ強さのチームだと思ってたところに。なので、これじゃダメだって思って合宿中に3,4年生を集めて話し合ったんです。」

    格上の国士舘だけでなく、自分達と同格と思っていたチームにさえ負けた事で危機感を抱いたとの事だが、彼らが負け続けた理由の一つは、成蹊大学のスローガンに関係していたものだった。

    ■ チーム作りの難しさ


    主将「このチームはアメフトを楽しむ事に重きを置いてるメンバーが多いんです。なのでチームの方針も、上から押し付けるよりも1人ひとりの根底に『楽しむ』を置いて、そこから色々やっていこうって方針で、2022年のスローガンを『ジャストエンジョイ』に決めました。」

    チームでアメフトを楽しむ事をスローガンに抱えた成蹊大学。表向きはなんの問題もなさそうに見えるが、チームには副作用のようなものもあったという。

    主将「楽しさをメインにしてしまうと、結果的に周りとの輪を壊さないようにって行動してしまいがちになるんです。でもそれだと、輪の中で上手く動くだけになってしまう。誰かの意見があって、それと別の人の意見がぶつかり合うことで初めて生まれるものがあるはずです。もちろん意見をぶつけ合えば嫌われるかもしれない、嫌な事かもしれない。だけどそれを乗り越えた先にしかないものがあるはずです。」

     主将が話すぶつかり合いと、そこからしか生まれないもの。それについて若林選手はこう話していた。

    若林「自分たちのチームって上下関係があまりなくて、皆で飯行ったり、先輩が車を出して皆で温泉に行ったりしてます。なんか、ほんとに家族みたいな暖かさがあるんです。けれどその反面、これまでは部員数が少ないから自分は絶対試合に出られるって意識の選手が比較的多くて、ポジション毎の競争心がありませんでした。」

    そんな状況だったチームだが、合宿での話し合い以降はそれぞれが意見を言いあって、皆が受け身な姿勢から徐々に変わっていったそうだ。

    若林「やっぱり、お互いがバチバチすることでチーム全体が強くなる部分ってあると思うんです。反骨精神が生まれて、同じポジションでコイツには勝つぞって気持ちが芽生えたり、チーム内での競争心が生まれたり。なので、いい効果が出たなと思います。」

    勝てない状況からチームは少しずつ変わり、今シーズンの結果を残せた成蹊大学。彼らが作った結果にはコーチ達からの教えも影響していた。

    ■ 感謝する人と言葉


    西山「自分は去年まで指導頂いた松田コーチに感謝しています。アメフト未経験で入部した自分に、コーチは1からプレーを教えてくれました。

    中でもコーチから言われて今でも覚えてる言葉は『出来ない理由を考えるより、出来る理由を考えろ。』です。

    2021年の試合で松田コーチと話す西山選手

    それまで自分は『このプレーはダメなんじゃないか』ってマイナスな考え方だったんです。そんな時にこの言葉を言われて、当時の自分の弱みというか、核心を突かれたって思いました。それからは考え方を変えて、どうやれば上手くいくかって考えるようになりました。」

    榎本「自分は同期でもう一人のTRの植松に感謝しています。当初もう一人いたTRが辞めてしまって、スタッフの誰かがTRになる必要があったんです。その時に彼女が手を上げてくれて、それから4年まで2人でやってきました。そういう意味で感謝してますし、これまで自分がTRを続けてこれたのも彼女のお陰かなと思います。

    あとは、平野HC(ヘッドコーチ)から言われた『もっとプレーヤーとして行動していいから』って言葉が一番自分に残ってます。当時の自分がトレーナーのリーダーになって、思ったように動けてないのを心配してくれていたんだと思います。その言葉もあって今シーズンは最後まで自分のやりたい事が出来たかなと思います。」

    若林「自分も平野HCです。コーチと自分は高校が一緒で、現役時代のポジションも一緒なんで、それもあってか他の人よりメチャクチャ厳しく指導して貰いました。

    成蹊大学HC 平野公亮氏

    中でもコーチから口酸っぱく言われたのは『トライ&エラー』でした。これまでの自分達って、『あれやったらどうか』って話し合いばかりで行動して無かったんです。それを『トライ&エラー』を言われてから行動に移し始めて、今シーズンの結果に繋がったなと実感しています。」

    主将「主将になってから平野HCに言われたのが『納得感のある行動・選択をしろ』でした。3年生までのアメフトできつい事って、走ったり筋トレしたりって肉体的な事で済むと思うんです。だけど 4年生になると、自分達がこのチームを率いて行くんだ、最上級生としてチームの矢面に立つんだっていうプレッシャーが出て来ます。更に主将になると、色んな方面から『こうした方がいいんじゃないか』とか『ああした方がいいと思います』っていう意見や文句を言われる中で行動する事になるんです。

    色んな事を言われる中で、主将としての自分の言葉や選択に説得力を持たせるために、まずは自分が納得して『この選択が正しいんだ』と思える行動をとれと教わりました。

    自分の打ち出した決断を貫き通せたのは、この言葉で納得して行動出来たからだと思っていますし、これが無かったら自分の言動がフワフワして浮ついたものになって、率いられる側のメンバーも不安になったり、違う方向を向いてしまっていたと思います。なので平野HCからは、本当にリーダーとしてどうあるべきか、という事を教わりました。」

    ■ 新入生に向けて


    最後にこれから入学する新入生に向けて、4人それぞれに成蹊大学アメフト部をアピールして貰った。

    榎本「大学生活の4年間を充実させたいって思ったら是非来て欲しい。もちろん入部して、時には辛い事もあるとは思うんです。けど、僕は本当に4年間やってきて良かったって思います。なので入部して後悔させないって自信があります。」

    若林「アメフトって本当に色々な特徴を持つ選手がいて、その全員が一緒になってやるスポーツなんです。だから、誰でもここで自分の居場所が見つかると思うし、誰でも家族みたいに仲間になれるんです。あとは、人ってやっぱ毎日同じ生活してたら飽きちゃうと思うんです。だけど成蹊のアメフト部ならそれが無い。毎日が新体験で、それが4年間もある。それこそ人生も変わると思います。」

    西山「熱くなれる瞬間がある事だと思います。試合では色んな人が見に来て観客席で応援してくれるし、仲間とは嬉しい事、悲しい事を乗り越えて絆が深まって行くんです。だからこそ、試合で勝った時は何事にも代えがたい嬉しさがあります。そういう勝利の瞬間はやっぱり格別で、それが味わえるのが成蹊のアメフト部だと思います。」

    主将「アメフトは大学生からはじめる事が出来るし、この大学4年間でやるアメフトでしか経験できないものがあると思っています。若林が言っていたように、普通の大学生活では味わえない経験、もちろんその中には辛い事もあると思います。けどその分、感動や喜びは大きくなると思うんです。自分は大学4年間を振り返って、本当にアメフト部に入部して良かったと思ってます。自分たちが経験した4年間を、是非これから入って来る新1年生にも経験して欲しいなと思います。」

    彼ら幹部陣は引退したが、チームは既に新体制で動き出している。春に新しく入部する新入生達と共に、新しいチームが1部昇格の夢を実現してくれるだろう。

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