• インタビュー
  • 2022.11.25

屈辱から這い上がる古豪、苦しみ抜いて挑むラストシーズン|国士舘大学アメフト部 鈴木塔也

「勝ちたい、結果を出したいって、ただひたすら、これのためにやってきました。今までこのスポーツを本気でやってきたからには、ただ『頑張った』で終わらせたくない」

そう熱く話すのは、1部BIG8に所属する国士舘大学ライナセロス主将の鈴木塔也(すずき とうや)選手だ。

今シーズンの同チームは快勝で突き進み、TOP8昇格戦まであと一歩に迫っている。

今回はそんな1部BIG8の雄、国士舘大学ライナセロスに話を聞いてきた。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    熱い集団


    「強いチームならあると思うんですけど、自分たちのチームは練習で1人1人が熱い心を持ってます。なので練習中に喧嘩腰での口論になってしまうとか、試合でも仲間のプレーに『もっといけただろ!』って言い合ったりとか。そういう強い気持ちをもった部員が多くて、仲間同士で高め合っているんです。」

    自らのチームをそう話す鈴木主将は高校アメフトの古豪、知徳高校ポセイドンズ出身だ。アメフト経験者の鈴木主将から見て、大学入学時の国士舘はどのように見えたのだろうか。

    「自分は大学スポーツってとても厳しくて、上下関係がきっちりしてるものだと思ってました。けど国士舘に入ってみたら、もう1年生とか4年生とか関係なく、和気あいあいとしてるんです。だけど、その中でもしっかり礼節は保たれてて。なんか凄い馴染みやすいと思いました。

     だから、国士舘に入って良かったと思いました。練習の雰囲気も上級生が引っ張っていて、チームで目標を達成しようという志を持った先輩たちが多かったので。楽しかった、というのもあれなんですけれど、励める環境だと思いました。」

    国士舘が学年関係なく和気あいあいとしているのには、部員に一人暮らしが多く、彼らが近くのアパートで生活しているという事も影響しているそうだ。

    シーズン前に開催された連盟の記者会見で、鈴木主将は『自分にも他人にも厳しく』と発言をしていた。他チームの主将達が話す内容とは違う切り口。この言葉に込めたものを鈴木主将に聞いた。

    主将 鈴木選手

    「まず第一には、練習で走り切りが出来ない時だったり、疲れたから力を抜いてしまう時であったり、そういう苦しい瞬間こそが試合の勝敗を分ける重要なポイントだと思っています。つまり、練習で走り切れなかった1ヤードが積み重なり、試合の10ヤードという結果になっていく。強いチームってそういう練習でも文句言わずに、自分のためと思って、主体的にやる選手が大多数だと思うんです。

     だから練習の質を高めるために、自分に厳しくしていこうよと。第二には、そうは言っても自分に厳しく出来ない選手はいるので。そういう選手たちに厳しく言うには、言う側の自分自身が厳しくないといけません。だって、他人には厳しく言うのに、言ってる側は自分自身に甘いなんて、ありえないじゃないですか。

     強いチームになるためにも、TOP8に昇格するためにも、苦しいところから逃げずに、皆で頑張ってやっていこうという意味を込めています。」

    トレーニングで体から湯気が出る国士舘の選手

    他にも主将の言葉を裏付けるように、チームの公式SNSでも今シーズンを『苦しさを耐え忍んでやっていく』と記載していた。主将やチームから発せられる覚悟の言葉はどこから生まれたのだろうか。

    臥薪嘗胆


    「自分達が1年生の頃って、BIG8の中でもビリで、2部と入替戦をやるようなチームだったんです。弱くて、勝てなくて、辛い経験を1年生の時にしました。それで2年生になったらコロナ禍で、勝っても結果にならないシーズンを経験して。さらに去年の3年生は、頑張っても結果が残らなくて。

     この3年間、本当に結果を出せず仕舞いで辛かったんです。だから今年こそはって気持ちで、気合いを入れ直して、とにかく結果にこだわって。『頑張ったからいいや』じゃないんです。」

    主将はさらに続ける。

    「今まで勝つことだけ、ホントに、勝つっていうそれだけに集中してきました。ただひたすら本当に、自分達4年生は勝ちたくて、本当に勝ちたくてやってきました。」

    鈴木主将1人でなく、チームが勝利を渇望する国士舘の今年のスローガン、それは『臥薪嘗胆(がしんしょうたん)』。意味は先ほどのチーム公式SNSの文言『目的を達成するために苦労を耐え忍ぶこと』だ。

    そのために彼らは日ごろの練習メニューから変えた。

    「今は週に2回、ウェイトトレーニングの日を設定しています。トレーニングの日は前からあったんですけど、今年からはメニューを固定して、BIG3(ベンチプレス・スクワット・デットリフト)を多めにして筋力UPをするようにしました。

     あとは今年から、ウェイトトレーニングでグループを作りました。先輩・後輩混じってグループ作って、お互い切磋琢磨する環境にしたんです。それらもあって、春先にはMAX測定でかなり良い結果が出るようになりました。」

    鈴木主将が話す練習メニュー。しかしそういったものはサボってしまいがちだ。特に辛く苦しいトレーニングが増えれば尚更。

    「去年のシーズンが終わってから月ごとにMAX目標値を作って、1月にまた集まったんです。ウェイトってやればやっただけ数値が上がるので、1月になって測定して、数値が変わってなければ、そういう事です。

     勝っていくチームを作るって考えた時に、そこで結果が出せない選手は、例えば試合4Qの辛い瞬間になった時、そこで『やってやるぞ』って気持ちには絶対ならない、そう思うんです。」

    国士舘大の大野監督もこのように話していた。

    「ウェイトトレーニングも練習の一部。練習をサボっていたら上手くはなりません。」

    ウェイトトレーニングで数値が上がらない選手に対して、鈴木主将はどう対処したのだろうか。

    「自分はとにかく『勝つために』を重点的に考えています。そうなった時に、ウェイトのMAXですら数値を上げてこないって事は、まだその選手の気持ちが乗っていないんだろうと思って。それで、個人面談をやりました。」

    個人面談


    「(面談では)本当に本音で話してほしかったので、『取り繕わなくていいから本当のこと話していいよ』って言いました。それもあって選手からは、『面倒臭かった』とか『シーズンオフだから遊びたかった』っていう意見が出てきました。そこまで聞いて、今度は自分が聞くんです。『じゃあ勝ちたいの?』って。」

    トレーニングは辛いもの。しかし勝つためには避けられない。鈴木主将は、日常からその辛い事をこなす、それこそが試合での、ここぞという場面にも耐え、立ち向かうものを作ると話す。

    「面談した選手には『筋力トレーニングも、今の僕たちにはパワーがないから必要なんだ』って話をしました。そして、『全員でやっていこう、ポジションごとに目標を達成していこう』って。面談は選手1人に主将・副将なんで、ちょっと圧迫面接みたいな側面はあったかもしれませんけど。笑

     だけど、それは圧迫がしたいんじゃ無いんです。僕自身が自分は正しいなんて思っていないので。なので副将たちの意見も聞いて、少しでも正しい面談がしたいって考えたからなんです。ただ面談をやりたいんじゃない、少しでも選手に響く面談がしたかったんです。」

    『自分は正しいなんて思っていない』と話す鈴木主将は実際、ある副将の存在でそれを感じたそうだ。

    「副将で政輝優真(まさき ゆうま)って選手がいるんですけど、彼は2年生の時まで試合に出れていなかったんです。その間、彼は筋力トレーニングを頑張っていました。その結果、彼は今チームの大黒柱になって活躍しているんです。それも、試合に出れない間の筋力トレーニングの結果が結びついているからこそ。その彼が面談で選手に言うんです。『しっかりやれば出来るよ』って。」

    副将 政輝選手

    「当時の僕は、トレーニングで頑張ってる姿を評価してました。けど、彼の意見を聞いて、ウェイトトレーニングって数値に現れるもので、頑張りだけを重視してても結果が出ない、つまり勝てないんだなと。なので、とにかく結果を数字で出していこうと考えるようになりました。」

    これまでの辛い時期を一生懸命辛く苦しいトレーニングに取り組み、結果を出せた。そんな政輝選手自身の経験から紡がれる言葉だからこそ、面談対象の選手、そして鈴木主将にも響いたのかもしれない。

    屈辱の日々


    政輝選手から面談当時の話を聞いた。

    「(トレーニングをやらない選手に)『やれよ』って言ったら、そこで終わってしまうんです。だってトレーニングをやれないから今、自分たちと話して、面談をしているから。だから面談でやれない理由を話し合って、やりたくなるような方向にしていく必要があるんです。

     やりたくなる理由って、例えば試合で活躍するっていうのがありますし、あとは練習で自分以外のチームメンバーに勝てないのって屈辱じゃんって話をしました。」

    練習でチームメンバーに勝てないのを『屈辱』と話す政輝選手は、自身のこんな経験を話してくれた。

    「自分は高校ではWR(ワイドレシーバー)をやってて、大学の2年生からLB(ラインバッカー)になりました。なった当時は、アメフトの練習がとにかく辛かったんです。練習がキツイとかじゃなくて、練習で自分が弱いことに対して辛いんです。

     当時の自分は体重も軽くて体も小さかったので、もう練習でチームメンバーに負けっぱなし、ボコボコにされて。それと、WRで首の筋肉が弱かったので、LBになってから首を痛めるのに悩まされてたんです。」

    それもあり政輝選手は、試合に出れない間のトレーニングでチームの誰よりも体を大きくし、負けない自分になると決めたそうだ。

    「まずは体重を増やす事を決めました。週5でジムにいって、体を大きくして。その結果、WRの時の体重が78kg、今は92kgあります。ベンチプレスも、当時は95kgが最高だったのが今は145kgまでいけます。」

    トレーニングに励む政輝選手

    トレーニングによって体を大きくし、試合にも出られるようになった政輝選手だが、別の効果もあったと話す。

    「トレーニングをして、数字が思うように上がっていく。これまで上げられなかった重量を上げられる。それで自分に自信がつくんです。あとは正直、自分たちは今シーズンの試合で体力的に辛いと思ったものは無いんです。それも、走り込み含めたトレーニングのお陰だなってメンバーで言ってます。もう、みんな体力には自信があります。」

    自信となり、体力もついたと話すトレーニングの効果だが、実は彼らにはトレーニングに励まなければならない理由があった。

    少数精鋭


    副将の千葉智訓(ちば とものり)選手は話す。

    「このチームって人数が少ないじゃないですか。だから練習でもディフェンスやったらキックやったりって連続で出る事になります。さらに練習では走り込みに時間を多く割くんです。それもあって入部する前から『(国士舘は)練習がキツイ』って聞いてたくらいです。

     だけど、そのキツイ練習のお陰で、試合中にスタミナ切れをしたことがないです。自分たちは試合後半から上がって来る。スタミナがあるから。試合の後半に強いから、前半は余裕をもてるんです。」

    もう一人、トレーニングの効果を話してくれた選手がいる。それがQB(クォーターバック)の平田拓馬(ひらた たくま)選手だ。

    トレーニングに励む平田選手

    「自分は高校でもアメフト部でしたが、当時はQBではなかったんです。けれど当時から当たり負けしないようにって筋トレをしてました。筋トレはやればやるだけ、目に見える結果が出るのと、試合でも対戦相手から当てられても負けなくなるんです。なにより怪我をしないので。QBはほぼ自分だけなので、今は怪我をしないようにと思って筋トレに取り組んでます。」

    QBは攻撃の要であり、他の選手よりも怪我をしないようにとチームで大切に扱われる。国士舘のように少数精鋭チームであれば、それは尚の事だ。

    大野監督も「トレーニングの一番の目的は怪我防止」と話し、鈴木主将もこう話していた。

    「選手人数が少ないので、1人1人の力がホントに大事になって来ます。1本目の選手が怪我した時に2本目の選手が出るってなった時に、実力差が浮き彫りになってしまうんです。」

    少数精鋭の国士舘大学にとって、選手の怪我によるダメージは他大学のそれと比較してより大きくなってしまう。その為に彼らは辛く苦しいトレーニングに励む必要があった。

    トレーニングにより少数精鋭のデメリットをカバーする国士舘。彼らに今シーズンのライバルチームを聞くと、口を揃えて同じ大学名が出てきた。

    その大学とは、BIG8で唯一の全勝チーム、明治学院大学セインツだ。

    明治学院大学セインツ

    捲土重来


    平田選手は話す。

    「明学には負けたくないですね。去年の順位決定戦で負けて、悔しかったので。」

    先ほどの政輝選手もこう話す。

    「去年の最終戦、順位決定戦で負けた明学です。 BIG8にこんなチームがいたのかってくらい、まとまりがあるチームでした。勿論自分たちにもそういったものはあったつもりでした。けど明学の方が一枚上手でした。今は明学に勝つため、とにかく修正と改善を繰り返して、練習を全力で取り組んでます。」

    更にもう一人、明学にリベンジを燃やす選手がいる。副将の千葉智訓(ちば とものり)選手だ。

    「去年の順位決定戦の試合、その終盤のプレーで、自分がパスを取り損ねてしまって。それが有れば、もう少し明学に肉薄できていたかもって、今でも思ってます。だから明学には負けたくないです。」

    昨年の明学戦残り1分、パスを取れず項垂れる千葉選手

    鈴木主将もライバルは明学だと話す。

    「去年の明学との結果は、自分は妥当だと思っています。やっぱりサイズから違いましたし、雰囲気も違っていて。だから明学は勝つべくして勝ったんだろうなと思います。今年は明学に勝つために、自分達は春先からウエイトトレーニングに力を入れてサイズアップを図って、本当に1年がかりで倒す準備をして来ています。」

    他にも取材で話を聞いた国士舘大学の選手の誰もが『明学には負けたくない』『ライバルは明学』と話すほど、チームで昨年のリベンジに燃えていた。

    ここで国士舘大学のチームスローガン『臥薪嘗胆』に話を戻す。この言葉は『目的を達成するために苦労を耐え忍ぶこと』という意味が一般的だが、もともとの由来は『仇を討つと誓い、長い間の苦心や苦労を重ねること』であるそうだ。

    過去のリーグ最下位という先輩たちの仇。そして昨年の順位決定戦で明学に敗戦という仇。国士舘大学はそれらの仇をとるために辛い練習を重ねてきた。まさに『臥薪嘗胆』を体現している。

    大野監督は話す。

    「3年前は1部リーグで8位だったんです。それで2部との入替戦に出ました。その時の反省で、『走ること』、『全力で取り組むこと』、そして『準備をしっかりすること』これが自分たちのスタイルであり、それを貫き通そうと。それが1年目に少し改善出来て、2年目にもまた少し改善が出来て、そして今年、更に改善が上向きました。

     そのぶん練習がキツイと思うんですよ。走りますし。なので選手たちには、『これだけキツイことを練習でやってるんだから、その報酬はちゃんと貰おうよ』と常に言っています。」

    試合前のハドルで選手たちに檄を飛ばす大野監督

    「自分たちのエネルギーだけを試合で出してその報酬が無い。それはただの自己満です。それではダメだ。やった事はキチンと勝利という報酬を貰おう、そう言っています。」

    監督もキツイと話す練習を耐え忍び、今シーズンの国士舘は5勝1敗と快勝を続けて来た。残すはリーグ全勝の明治学院大学との決戦のみ。

    鈴木主将は話す。

    「勝ちたい、結果を出したいって、ただひたすら、これのためにやってきました。今までこのスポーツを本気でやってきたからには、ただ『頑張った』で終わらせたくない、そう思ってる選手がチームでかなり多いです。しっかり形に残したいと思ってます。TOP8昇格という結果として。」

    国士舘と明学の決戦は12月4日。明学戦に勝利すれば、TOP8昇格戦へも手が届く。

    臥薪嘗胆の日々を経た国士舘は明学への雪辱に、そしてTOP8昇格へと捲土重来を誓う。

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