• インタビュー
  • 2022.11.04

『タフチョイス』厳しい現実と向き合い、決めたスローガン|東洋大学バイキングス 藤生智也

「入部するまでは正直、協調性が無かったんです。ふざけてて当時の高校ラグビー部の先生によく怒られてました。そういう自分でも、アメフトを通して協調性が出来ました。」

そう話すのは東洋大学バイキングス 主将、藤生 智也(ふじう ともや)選手だ。

今シーズン2部Bブロックの第1グループに所属する東洋大学に、これまでの道のりと今シーズンにかける思いを聞いた。

▼目次

    記事・写真:三原 元

    まとめる主将


    藤生主将は埼玉のラグビー部の強豪、獨協埼玉高校出身。ラグビーと言えば東洋大学ラグビー部は名門として名を馳せており、今年は22年ぶりの1部復帰で話題だ。

    高校でラグビー部、そして進学先の東洋大学もラグビー部の名門だ。しかし、藤生主将は「大学では、何か新しい事を経験したい」と思い、アメフト部に入部する。入部する前後のアメフト部の印象はどうだったのだろうか。

    「入部前は、体育会なので上下関係が厳しいのかなと思っていました。けど入ってみたら全然そんなことなくて、初心者の自分に先輩たちが優しく教えてくれました。あとは部活って、ガッツリ練習をするものだと思ってました。けれどアメフト部は練習する時間よりもミーティングする時間が長かったんです。そういう所は入る前に思ってたのと違う部分でした。」

    入部当時をそう振り返る藤生主将。

    高校まで打ち込んで来たラグビー、そして大学から挑戦したアメフトは同じコンタクトスポーツとして良く比較される。藤生主将はこの2つの違いをどう感じたのだろうか。

    「アメフトって、ラグビーみたいにチームスポーツって思ってました。だけど、やってみると一人一人にアサイメント(アメフトでプレー毎に割り振られる役割)が割り振られているんです。なので、ラグビーみたいにチームスポーツではあるんですけど、それと同時に個人が自分の役割を全うするっていう、個人プレーみたいな所もあるスポーツだなと思いました。」

    アメフトはチームスポーツであり、個人スポーツの側面もあると話す藤生主将。入部時はアメフト初心者であった彼は3年後の今年、引退する先輩達から主将に推薦される。

    「(なんで自分が主将に推薦されたか)と言われると、自分より上手い選手はいるのでプレーうんぬんって事では無いと思います。自分は3年生のときから、他の選手とコミュニケーションをとるのを意識してました。というのも、自分がSF(セーフティー)っていうポジションで、他の選手とコミュニケーションをとっていく必要があったんです。それを先輩たちに評価して貰っていたのかなと思います。」

    主将という大役についてそう謙遜する彼を、周りはどう見ているのか。3年生で今年の新歓リーダーを務めた征矢 善(そや よしき)選手に聞いた。

    「主将はメリハリがある人です。オフの時は笑わせてくれる陽気な人なんですけど、主将として前に立つ時には、ズバッと言う事は言うし、しっかり注意もしてくれます。これまで主将になるまでは皆でワイワイするタイプの人だったんですけど。けど主将になってからはリーダーシップが出て、やるときはやる人なんだなと。」

    また、コーチからはこんな話も聞かれた。

    「彼は苦労してやっているようです。コロナもあり、メンバーをまとめるのに苦労している。春の時点ではオフェンスもディフェンスもまとまらなくて、そういう状況でメンバー間でいろんな意見があったようです。それも合宿があってまとまってきた。」

    『ターニングポイントになった』ともコーチが話す合宿を通して、チームはどう変化したのだろうか。

    まとまる合宿


    「合宿前は、あんまりチームでまとまりが無かった状態でした。アメフト部っていう繋がりではまとまってはいたんですけど、学年ごとで団結みたいのがなくって。というのも、あんまりお互い話し合う機会が無かったんです。」

    話し合う機会が無かった理由はコロナにあったようだ。先程のコーチはこう話す。

    「これまで大学のコロナ対策で、学内で集まってのミーティングが出来ていなかったんです。教室が使えず、ミーティングの時間が取れない。」

    大学によってコロナ対策は異なる。東洋大学では新歓の時期に学内での教室・部室を使った集まりを禁じていたとのことだ。オンラインでミーティングをする事は出来る。しかし相手の表情や空気を掴みながらの会話はリアルでしか出来ない。

    さらに、お互いの時間を共有する事でしか構築できないものもある。これまで部活動を通じ、当たり前のように構築できていた様々なものは、しかしコロナによって当たり前ではなくなってしまっていた。そして、そんな状況を変えたのが合宿だったと藤生主将は話す。

    「合宿に行く前はチーム内でギクシャクしてて、言い合いも正直ありました。あとは考えの違いも。合宿前までのチームは、怪我が多いからガツガツやりたくないって考えと、でもやらないと強くならないって考えの2つがチーム内にあったんです。これまで話す時間が無かったんだと思います。でも合宿って、24時間ずっといるじゃないですか、メンバーが。

    だから合宿でようやくメンバーでじっくり話す事が出来て、それで皆の思いをそれぞれ伝え合って、コミュニケーションして。あとはアサイメントも。人がいなさ過ぎてリャンメン(オフェンス・ディフェンスを兼任する選手)になる選手が多かったんですが、これまでミーティングが出来なくて、それぞれのポジションを教える時間が十分に取れていなかったんです。それも合宿中にしっかり時間が取れてミーティングして、練習することが出来ました。」

    さらに合宿では、人数不足でスクリメージが組めないという問題も何とか解決したそうだ。というのも、彼らが合宿をしているのと同じ場所で他のチームも合宿をしていたのだ。

    「これまでは人数が少なくて、自分たちでスクリメージが組めなかったんです。最初はそれで合宿に行く意味はあるのかって話が出たりしました。でも合宿に行ったら行ったでやることはあるし、何より合宿の8日間の内、3日を他チームとの合同練習を組むことが出来ました。」

    コーチは合宿を振り返って話す。

    「同じ環境にいて、腹を割って話したり、一緒にフットボールの事を考える。それらはこれまで大学のコロナ対策で十分に出来ていなかったんです。だから余計にこのチームでは、合宿の効果が大きかった。」

    これまで当たり前のように行われていた合宿。行く前は『やる意味があるのか』とさえ言われていたそうだが、実際行ってみると、合宿によってコロナ禍でままならなかった様々な事が解決し、そしてチームがまとまる要因となったそうだ。

    そしてチームにとってこれまで当たり前だったイベントがもう一つある。それが新歓だ。

    ままならぬ新歓


    「やっぱりオンラインで人を集めるっていうのが難しくて。そもそも『アメフト』って認知度が低いので、最初から興味をもっている新入生が少ないんです。」

    そう話すのは、先程登場した新歓リーダーの征矢選手だ。

    「例えば『オンラインでアメフト部がイベントやります』って言っても、人が集まらないんです。なので、履修相談とか学校生活に役立つ事を前に出して人を呼ぶ必要がありました。それと、やっかいなのが大学のコロナ対応だったんです。一週間前からの体調チェックがないとグラウンドに入れないと言われて。

    そうなると、興味を持ってくれた新入生が今日いても、実際にイベントやるまでの一週間の間に、もう興味が無くなってイベントに来てくれない、なんて普通にありました。」

    大学のコロナ対策で新歓活動がままならなくなる中、しかし時間だけは過ぎて行く。彼らは制限された状況下でいかに効果的に動くか、頭を働かせた。

    「なるべく対面で会える機会を去年よりも増やして、イベント後もごはんを一緒に行ったりして、新入生との距離を近く保つようにしました。とは言っても、イベントをして仲良くなっても、新入生には他の部活からも引き合いが来ているんです。なのでラインを交換しても、そこから連絡が途切れちゃうと他の部活にいってしまう。あるいは同じ新入生同士で他の部活を見に行って、そっちに入部しちゃう。

    だから、とにかく連絡を取り続けて、新入生をこっちに向かせ続ける必要がありました。それを続ける事で他の部活よりも距離が縮まって、アメフト部に入部という形が多くありました。」

    更に彼らは、これまで紙で行っていた新入生の勧誘リストを電子化し、チームでどこでも誰でも共有出来るようにしたそうだ。

    「(今年の新歓を振り返ると)新入生をリスト化して、アメフト部への興味度が高い人に優先度をつけてアプローチかけるっていうのが大事だったなと思います。これまでは個人で紙のリストを作ってたんですけど、エクセルで一つに纏めて、チーム内で情報を共有しました。そして新入生とは継続的に連絡をとって、関係を繋げていく。」

    電子化して共有すれば、状況をチーム内で可視化する事が出来るし、何よりも担当する新入生の取りこぼしやダブルブッキングを防ぐ事が出来る。制限されたコロナ禍での新歓。チーム内で工夫し取り組んだ結果は新入生4人、2年生が2人という結果だった。

    現在チームの選手数は29人。その内4年生が半分を占めるため、彼らが卒業して抜けた来年には部員数という問題が重くのしかかる。しかし主将はこう話す。

    「来年の部員数って問題もあるんですけど、今は目の前のシーズンに集中して、着実にやっていく事に力を入れています。今年は順位によってはリーグ降格があるので、プレッシャーがあります。」

    前には今シーズンのリーグ成績、後ろには来年の部員数という問題が迫る彼らの置かれた状況は厳しい。しかしそんな中でも、彼らは毎日部活に取り組み、リーグ戦に挑み続けている。

    そんな彼らの今シーズンスローガンは『タフチョイス』。まさに彼らの状況を表しているかのような言葉だ。

    さいごに


    今シーズンのスローガン『タフチョイス』、そしてチームの目標に込めた思いを藤生主将に聞いた。

    「人数が少ないからこそ、しんどい選択をしないと勝てないと思います。なのでこのスローガンを僕が決めました。目標は最初『1部昇格』って言ってたんですけど、これ毎年目標にしてるけど達成できてないじゃんって話になって。なのでチームで話して、達成出来る、いや絶対達成したい目標にしようって話になりました。

    1部昇格って、2部リーグのどこのチームも掲げてる、いわば絶対目標になってるじゃないですか。でも自分たちは、悔しいけれど自分たちは1部昇格は置いといて、今年は絶対2部リーグに残ろうって。有言実行出来る目標を目指します。」

    最後に、これまでチームを支えてくれて来た、様々な人達への思いを聞いた。

    「主将になって痛感したのは、部活をするにはお金がかかるという事です。今年は父母会の方々の金銭的な援助があって、これまで購入出来なかったものを買う事が出来てます。それ以外にもスポンサーになって下さった人達、OBの人達からもサポートを頂いています。そういった人達のサポートがあってこそ、僕らは部活が出来るんだと痛感しました。

    なので、サポートして下さる方々には本当に感謝していますし、その恩返しを試合の結果で、ビックプレーで会場を沸かせてみせます。人数関係なく、1つのプレー、1人のプレーで会場を沸かせる事ができる、それがアメフトの魅力ですから。是非会場に来て、応援頂けたらと思います。」

    厳しい状況下でもアメフトに打ち込み、今シーズンに臨む彼ら東洋大学アメフト部に注目したい。

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