• インタビュー
  • 2022.10.21

生粋の『負けず嫌い』、ラストシーズンに懸ける思い|神戸学院大学ネイビーシールズ LB佐圓達信

昨季Div.2で強豪の龍谷大学を破り、見事入替戦出場を決めた神戸学院大学ネイビーシールズ。京都大学との入替戦で惜しくも敗れるも、近年勢いのあるチームだ。

今季のチームを率いるのは、高校時代にも野球部で主将を務めた経験を持つLB佐圓 達信(さえん たつのぶ)選手。

入替戦出場の経験が彼らをどう変えたのか。ラストシーズンに懸ける思いを聞いた。

▼目次

    ■ 約43年ぶりの入替戦出場も、大きなレベルの差を感じた


    昨秋のリーグ戦では初戦から3連勝し、最終節で現在Div.1の甲南大に惜しくも敗れたものの、1978年以来、約43年ぶりにDiv.1への入替戦出場を決めた。

    運命を決める入替戦の相手は京都大学。京大は入替戦には出場したものの、関西リーグ屈指の実力を持つQB泉選手を擁する強豪だ。「スピード感やサイズ、プレーの完成度とか。2部リーグでずっとやってた僕らと1部リーグでずっとやっている京大さんで、プレーしている環境や根本が違うなっていうイメージでした」。ファイナルスコアは23-0。前半から京大ペースで進み、試合内容としては完敗だった。

    チームをはじめ、自身もリーグ戦と入替戦の雰囲気の違いに圧倒されたという。「緊張感でいつも通りのプレーが全然出来んくて。ほんまに緊張してガチガチでしたね。試合中はいつも通り目の前のプレーに集中できてるとか思ってたんですけど、試合終わって自分のビデオを見たら全然動きとかも違うし、しょうもないミスとかも多かった」

    Div.1昇格があと一歩で叶わなかった悔しい思いをした半面、1部リーグで長く戦い続ける京都大学と秋に激突したことで学ぶことも多かった試合だった。「京大戦でサイズ、スピードで負けていることを選手それぞれが感じて、今シーズンは個々の能力アップのためにフィールドトレーニングにはかなり力を入れています」

    あの日の敗戦から、体作りに余念は無い

    リアルな『取り組みの差』が浮き彫りになり、目指すべき目標が明確になった。新チームが始まった当初から強度の高いトレーニングを秋シーズン中も継続し、今は選手一人ひとりのフィジカルが確実に向上している手ごたえがあるという。

    ■ 高校野球と大学アメフト、主将を続けた理由


    引退していった先輩や同期からの思い、何より京大戦の敗北で感じた強烈な悔しさから、チームを変革する主将になることを決意した。

    「京大戦を通して、試合前の何週間だけじゃなくて、1年間を通して取り組むことの大事さを感じました。選手1人1人が常に目指す当たり前のレベルが1年通したらほんまに大きい差になって、プレーにも大きく関わってくると思った。チームとしても個人としても、今まで以上にレベルアップしたいな、させたいなと思ったんで主将になりました」

    佐圓選手は門真なみはや高校(大阪)で野球部に所属。高校3年生では今と同じく主将を務めた。「一人のスポーツマンとして、挨拶・礼儀や一つのことを真剣に徹底してやるとか、そういう当たり前のことがしっかり出来ているのは高校3年生の主将の経験とかもあるんかなと思います」

    高校卒業後は「野球をやりきった」と思い、大学では何か新しいスポーツに挑戦したかった。そこで大学から競技を始める選手が多いアメフト部に入部を決めた。入部後からLBをプレー。ディフェンスの中核としてプレーの理解度など求められることが多く、未経験では非常に難しいポジションだ。

    未経験から結果を残すために取り組んだことを聞くと「この4年間の中で、まずはどれだけ時間をかけるかが大事だなと思っていて。効率も重要ですけど、量とか時間をかけて初めて言えることだと思う。チーム内だけじゃなく、2部リーグはもちろん1部リーグと比べたときに勝る練習量だったり、アメフトに時間をかけれているかを意識してきました」と語る。

    試合前の一時的な取り組みではなく、少しずつ、長い時間をかけて積み重ねてきた信頼で今ではチームやディフェンスに無くてはならない存在になった。

    入部当初から積み重ねてきたものをラストイヤーにぶつける

    3年生までは『自分』が強く、上手くなるための取り組みに必死だったが、主将になり『チーム』を強くする立場になったことで高校時代と違うチームビルディングの方法など、最初は戸惑った。「組織が大きくなればなるほど、自分の取り組みであったり背中を見せるだけじゃ人はついてきてくれない。自分が思ってる意見を声に出して人に伝えることもキャプテンの仕事の一つ。コーチには『同期にもチームメイトにも、もっともっと言っていかなあかん』と常に言われています」

    高校、大学共に主将。主将はチームの顔であり、目立つポジションであるが、反対にチームの運命を左右する重責を担う。そんなプレッシャーがかかる中でも取り組む理由を聞くと、「やっぱりやり切った後に得れるもんが大きいのは高校からずっと分かってるんで。1日1日をとにかく全力でやりきっていくしかないかなと思っています」と語る。

    ■ リベンジ誓う、ラストシーズン


    そんな佐圓選手は自他共に認める負けず嫌い。野球部時代から生粋の負けん気を持っていたという。「OLとかRBと勝負して負けたときが一番悔しい気持ちが強い。自分より強くて、上手くて、速い選手がいるっていうこと自体が悔しいですし、いつまでも誰かに負けてる下手くそな自分が居るっていうのも悔しい」チームを率いる強いリーダーシップを持ちながら、自分自身のプレーの実力にも最大限こだわる。

    今季のチーム目標は「リーグ戦全勝優勝」だったが、ここまで惜しくも3戦中2敗を喫している。この後の試合を勝ち切ることはもちろん、次世代のチームに何を残すのか。主将としての真価が問われる。「まずは2部リーグを、しっかり一戦一戦全力で取りに行くことが大事かなと思います」

    一番負けたくない相手は「桃山学院大学」と即答。桃山学院大学は佐圓選手が1年生時に大敗した相手。4年生で最後に試合が出来るチャンスが巡ってきた。12月4日のリーグ戦最終節、3年越しのリベンジを誓う。

    「僕らは約40年ぐらい1部昇格が出来ていない。神戸学院の歴史の中で一番フットボールに対して真剣に取り組んでるチームでないと、1部昇格するのは難しいかなと思います。そのためにもまず1日1日、リーグ戦でも1試合1試合、目の前にある目標に対して全力でやりきっていくことが一番大事なのかなと思っています」

    ■ アメフトを経験したからこそ、得れたスキル


    神戸学院大学には『ファンクラブ』があり、日頃から物資の支援などサポートしてくれる力強い存在がいる。佐圓選手自身も日々支えてくださっている多くの方の気持ちを強く感じているという。

    「アメフトはルールを知ってる人でも知らない人でも、ビッグプレーをしたときっていうのはその選手が目立つと思うんです。ですがビッグプレーの裏には、その一瞬のためにとてつもない長い時間をかけて、コーチとか先輩や同期、ファンクラブや保護者の方のバックアップがあります。サポートがあってこそのプレーなんです。」

    大学アメフトを4年間経験し、主将としてラストシーズンを戦うことを選んだ佐圓選手はどんなスキルを得たのか。

    「目の前のことに全力に取り組めることっていうのは、社会でも何事にも通用することかなと思います。人との繋がりであったり、コミュニケーション力とかっていうのは、社会で通用するかなと。あとは試合前に感じるとんでもない緊張感を乗り越えてきたので、そういうのは高校やったり大学であったり、学生の間に何か真剣に部活に取り組んでこそ得れる経験出来るもんやと思っています」

    最後に理想の主将像を聞くと、チーム全体を支える声掛けはもちろん、怪我することなく最後まで試合に出続け、プレーでチームを鼓舞したいと答え、「僕が理想の主将になれたかどうかは、シーズンが終わってみない分からないです」と付け加えた。

    最終節のゲームクロックが0秒になるまでフィールドに立ち続け、7年間の学生スポーツの集大成となるシーズンを戦いきる。

    この記事をシェア